【カーニバル】
薄く広がっていく空の灰色に緑色の雲が混じっていく。男は常温で置かれたピンガをあおり陽に焼けた大きな袋を担いで立ち上がる。遠くからぬるりと流れてくる風が足元を伝う。その生ぬるい匂いのする空気に立ち上がったカーキ色の作業着の埃が舞って午後の仕事が始まる。
部屋もだいぶ片付いたし、きっと喜ぶだろうね。フェイジョアータにサフランのご飯もある。きゅうりのサラダだってある。仕事で火照った体を冷ましてくれるだろうね。ベッドもピカピカだしあの人もきっと喜ぶ。
今年のカーニバルのことを考える。ピンガが食道を焼いて少し逆流したのを感じる。もう少しだ。もう少し働いたら冷えたカイピリーニャにありつけるし好きなだけサンバのことを考えられる。ツマミには揚げた鶏も食うだろうな。これをやりながらカイピリーニャを飲む。
「おい、グスタボ。お前の彼女セクシーだな。いったいどこで出会ったんだ?」
グスタボよりも大柄なその男が声をかけてくる。
「どこだっていいさ。どちらにせよお前がモテるには歯磨き粉を買うことと気の利いた部屋に住むことが必要だよ。」
もう少しだ。あの人は今日もたくさん働いてたくさん汗を流して一杯だけカイピリーニャでも飲みながら仲間と楽しんで、ここへ帰ってくる。もう少し。もう少しだね。きっとカーニバルの話でもして盛り上がるんだ。それでもいい。もう少し待てばあの人は疲れた体でここへ戻ってきて、明日の朝はすっかり元気になってまた働きに出て行く。
傾くことを忘れた太陽が目に映るもの全てを焼く。もう少しだ。もう少し働いたら冷たいカイピリーニャに揚げてチリをまぶした鶏の手羽を食う。そして家に帰ればあいつがいるんだろう。でもその前にほんの短い時間だけカーニバルについて考えさせてくれ。分厚い手羽にカイピリーニャにありついたら、少しだけだ、カーニバルについて考える。そして家に帰れば今日の一日が終わる。シャワーを浴びてあいつの作った料理をオレは平らげる。最高だ。そしてあいつに抱きしめられながら明日の朝が来るんだ。