【処女作】 手紙
お手紙、手を挙げてくださってありがとうございます。とてもうれしかったです。
だいぶ前からお互いなんとなく知っていたと思うけれど、こうして言葉を交わすことが増えてきたのはけっこう最近なのかもしれません。最近と言っても半年くらい経つのかしら。TMネットワークやお味噌汁のお話をしたことはいまでもよく思い出します。
時々いろんなことを考えます。noteでの関係でも、ゆいさんのことは頭に浮かびます。他にどんな人が思い浮かぶだろう、そんなことを考えると、何を思っているかとかの話ではなく、作品に人生が映り込むような生々しいリアルな部分を創作に感じる人。作品は文字を用いて表現されているけれど、もし彫刻とか音楽とかの才能を強く持ち合わせていたならば、同じひとつの作品を別の手法で表現していたんだろうなって人。ゆいさんの作品、作品数が多いので全部を読み切ることができていませんが、息を感じたり、今どんな部屋にいるんだろうとか、そんなことまで浮かんでくることがあります。書いていて何を言ってるのかわからなくなってきました。
話を変えましょう。いつか整理できたら、またこのことについて掘り下げてみたいと思います。
ゆいさんがもし手を挙げてくれたら、そう思って実はどんな手紙書こうか決めていました。それは手紙という手紙じゃなくて、ずっと気になっていたある企画への参加です。
お話をひとつ書いたのでこの手紙に挟みました。
気に入ってくれるといいな!
恋愛ものは初めて書く気がします。処女作を捧げます!爽やかよ!
【パピコ】
「ねえ、まだ歩くの?」
田んぼの先にお気に入りのお菓子屋さんがあるというのでついてきたものの、思っていたよりも遠いことに疲れてきた。
「もうちょっとだよ。でも、絶対に気にいると思うから、我慢してついてきてよね。」
隣のクラスのマイと仲良くなったのはいつからだろう。時々共通の知り合いも一緒に話したりしながらいつのまにか2人で帰り道に何か食べたりするようになって、今日はこんな遠くまで。落ち着いたイメージとはかけ離れたこの行動力。
「あんま日焼けしたくないんだけど!こんな暑かったら絶対やける!高校最後の夏に日焼けって、ねえ、来年からわたし働くからちょっとくらい落ち着いた感じにしたいの!焼けたくな〜い!」
マイはテクテク歩いていく。その横にわたし。うっすら浮かぶ汗がきれい。でもこんなこと言えないし。ふざけた会話でごまかすけど。
「しーちゃん、あそこ!見えてきた!」
知らないうちにだいぶ近くなってきて、振り返った髪が太陽の隙間に舞って、なによりお腹も空いてきて。
「お腹ペコペコ。あれっ、お菓子屋さんって、駄菓子屋さんじゃん!」
「そうだよ!ここのコーヒーがおいしいの。すいません、コーヒーください。」
マイは慣れた感じでコーヒーとお菓子を買い、わたしはパピコとチョコを買った。軒先のベンチに腰をかけて、日陰から見る緑が涼しい。
冷たく汗をかいた真鍮のグラスにたっぷりの氷の浮かんだコーヒー。きっと大人の味。パピコを半分に割る。一応聞いてみる。
「半分いる?」
マイはありがとっていって、その後に首を横に振って、それはなにかのCMみたいにきれい。なにはともあれわたしはパピコを独り占めできたし、聞いてよかった。あまくてしゃりしゃりして、おいしい。開けたてのチョコレートもおいしくて、幸せな午後。そのチョコにマイの手が伸びてきて、指が触れた気がしてなんだか嬉しくなった。
グラスの氷がカラリと音を立てる。風鈴のように揺れる。わたしの夏。コーヒーの香りを嗅ぐたびに思い出すのかな、そんなことを思いながらパピコを食べ終えた。同じコーヒーでもすごく違うんだろうな。わたしはあんなに苦いものは飲めない。マイはいつもコーヒー。
「しーちゃん、たまにはコーヒーのんでみたらいいのに。いつのまにかおいしく感じるようになってるかもよ。」
「むりむり!こないだ一口もらった時すごく苦かったもん!苦いのに味がないかんじ!」
「パピコだってコーヒーだよ。夏休みにパピコの特訓の成果でしーちゃんはコーヒーを飲めるようになりました!自由研究って宿題にあったっけ?」
「パピコの特訓!なにそれっ、おもしろい!」
遠くの田んぼや山を見ながら、2人で笑った。となりで真鍮のグラスがカラリとまた鳴って、わたしはマイを見た。マイもわたしを見ていて、稲穂が囁いて、遠くにセミが鳴いて、キスをした。冷たくて、コーヒーの香りとパピコの味がした。
「ごちそうさまでした!」
マイはそう言って立ち上がって、またきてねって声がお店の奥から聞こえた。わたしたちは手を繋いで来た道を帰る。滅多に通らないバスがたまたま通りかかって、わたしたちはそれに飛び乗った。今日はいい日だね、そんなことを話しながら。
【おしまい】
あ、この手紙、こっちのポストにも入れてくる!
岩代ゆいさんへ
クリオネより愛をこめて