見出し画像

愛聴盤3選 No.4

こんにちは、ぶらいんどです。rockin’on sonicの第2弾ラインナップが発表されましたね。第1弾で既に充分なインパクトがありましたが、第2弾ではその衝撃がさらに上乗せされましたね。期待を胸に抱くべきところかもしれませんが、正直なところ、私にとっては遠い彼方で起きている他人事のように感じています。東京から遠く離れた地に住んでいる私にとって、参加できる可能性は限りなく低く、そのワクワク感もどこか冷めたまま。ただ淡々と情報だけが流れていくのを眺めているだけです。

「愛聴盤3選 No.3」を書きながら、並行してこの記事に取り組んでいるという状況の中で書いていますこの記事。前回の記事からそれなりに期間が空いてしまいましたが、どうぞ気軽にお付き合いくださいませ。

Hunky Dory / David Bowie (1971)

音楽的変幻自在のカメレオン、デヴィッド・ボウイがグラム・ロックの華やかな時代に発表した大名盤『Hunky Dory』は、彼のキャリアにおける重要な分岐点を示しています。この1971年のアルバムは、ボウイがその音楽的アイデンティティを一度解体し、新たな構築へと向かう過程で生まれた、まさに実験的な作品です。

『Hunky Dory』は、その音楽的探求が極めて非凡な形で表現されており、グラム・ロックはもちろん、ポップアート・ロックなどの要素が混然一体となったサウンドは、まるで音楽的ラボラトリーでの試行錯誤の結晶のようです。前作『The Man Who Sold the World』のハード・ロックの危険な狂気とは似ても似つかない本作。ミック・ロンソンのギターは後景に追いやられ、リック・ウェイクマンのピアノがアルバムのサウンドを支配しています。全体を通して感じられるのは、ボウイが自らの音楽的枠組みを徹底的に解体し、新たな形態を模索している姿です。

ボウイは社会的・文化的風刺をその音楽に込めながら、自らの存在やアイデンティティを深淵に見つめ直しています。このアルバムは、高級と低級、曖昧なセクシュアリティ、キッチュな雰囲気、そして彼の内面的な葛藤外部世界への批判が交錯し、広大なメランジ調のように混じりあっています。
『Hunky Dory』は、ボウイが音楽的な様式の枠を超えようと試みる一方で、解決策を提示するわけではなく、むしろ変化の予兆としての意味を持ちます。彼の音楽的探求が示すのは、常に不確実性と変容の中での存在であり、リスナーに対してもその恐怖と美しさを同時に押し付けているのです。

結局のところ、『Hunky Dory』はボウイの音楽路線における一時的な停留所であり、彼のキャリアにおけるさらなる探求の先触れに過ぎません。ボウイの音楽という名の終わりなき旅路は、常に変化と混沌の中で進行し続け、その背後には無限の可能性と不安が潜んでいるのです。華麗な装飾に包まれた、アイデンティティの破壊と再構築という名の無情な実験の舞台と言えるでしょう。

Transatlanticism / Death Cab for Cutie (2003)

前口上でも軽く触れましたrockin’on sonicの第2弾ラインナップに名を連ねたアメリカ出身のインディー・ロックバンド、デス・キャブ・フォー・キューティー。どうせなら、この機会に彼らの名盤『Transatlanticism』について触れざるを得ませんね。

『Transatlanticism』は、ただの音楽ではなく、心の深淵に差し込む一筋の光──その輝きに思わず眩暈を覚えるほど。デス・キャブ・フォー・キューティーの音楽は、ベン・ギバードの儚さと芯のあるボーカルを軸に、ギター、ドラム、ベースがまるで手を取り合うように互いを引き立て、見事な感情の交響曲を奏でます。

「The New Year」では、ギターの軽やかなリフと控えめなドラムがまるで冷たい冬の朝にパチンと弾ける氷のように、聴く者をその場に固定します。一方で「Title and Registration」は、見かけ上は穏やかでも、その奥に潜む不安や葛藤が聴こえてくる瞬間があり、その不穏さがじわじわと心に染み渡ります。まさに、内なる情熱が静かに沸騰していく感覚。

そして、アルバムの真骨頂「Transatlanticism」。この8分に及ぶ楽曲は、まるで感情のダムが徐々に膨れ上がっていくかのごとく、ピアノとギターの静謐な調べから始まり、次第に壮大な音の洪水へと変貌していきます。しかし、過剰な感情表現に陥ることなく、淡々とした展開の中に確かな感触を残す。この音楽の美学は、まさに「抑えたドラマティズム」の真髄です。おそらく、感情のカタルシスを求める者にとっては、過剰さのないこの淡々とした昂揚こそがたまらない魅力でしょう。

全体を通して、デス・キャブ・フォー・キューティーの音楽は、ひとたび耳を傾けると、その細やかな構成と複雑な感情の動きに惹きつけられ、何度も聴くたびに新たな発見があります。静かな美しさと情熱が絶妙に絡み合う音の層は、聴く者にとってまさに感情のパズル。解けたときには、深い満足感があなたを待っていることでしょう。

The Nightfly / Donald Fagen (1982)

ドナルド・フェイゲンを語る際、どうしても避けられないのが彼が所属していた伝説的バンド、スティーリー・ダン。70年代を代表するバンドであり、フェイゲンとその相棒ウォルター・ベッカーの卓越した作曲力と知的で風刺的な歌詞、そしてジャズやロック、R&Bを融合させた独自の音楽性は、当時のポップミュージックに大きな影響を与えました。そのサウンドは、どこまでも完璧主義でありながらも心地よく、フェイゲンのボーカルは常に冷静でクール。スティーリー・ダンで培ったこの職人的な音作りは、1982年のソロデビュー作『The Nightfly』にも引き継がれています。

まず、このアルバムを支えるのは、驚くほど洗練されたサウンドデザイン。彼の音楽は、まるで無菌室で緻密に作り上げられたようにクリア。どの楽器も、どの音も、「これ以上はない」というくらい精密で完璧。フェイゲンは、音楽のマッドサイエンティストのように、ジャズやR&Bの要素を丁寧に蒸留し、その上でスティーリー・ダン時代から継続して知的かつスムースなサウンドを注ぎ込みます。

アルバム全体を通じて描かれるテーマは、未来に対する希望と、その期待が裏切られる冷酷な現実です。フェイゲンは、冷戦下のアメリカにおいて未来に向けられたバラ色の希望を一度は手に取りながらも、それがいかに泡沫の如く消える儚いものであるかを知り尽くしています。彼の歌詞には、純粋な夢想が描かれつつも、その夢が崩れ去る瞬間を暗示するような洞察力があり、それがアルバム全体に独特の緊張感と深みをもたらしています。

このアルバムは、単なる過去の追憶ではなく、かつて抱いた未来への期待と、その結果としての幻滅が交差する作品です。ノスタルジーを感じさせつつも、楽観と虚無、光と影を自在に行き来するサウンドと歌詞が、聴く者に強い印象を残します。フェイゲンは、その磨き抜かれた音楽の中に、自らを冷静な観察者として投影し、夢見た未来がいかに遠く手の届かないものであったかを、静かに訴えかけているのです。

今回選んだアルバムたちは、静かな時間を取り戻させてくれる作品です。穏やかなメロディと感情を揺さぶる展開が絡み合い、聴くたびに少しだけ新しい何かを見つけられるのが、このアルバムたちの不思議なところ。音楽フェスの喧騒とは無縁で、ただ自分だけの世界に浸れる一枚です。忙しい日々の中で、ふと立ち止まり、自分自身を見つめ直す時間をくれます。
こうした作品に出会うたび、音楽がどれほど私にとって欠かせないかを思い知らされます。日々の喧騒にかき消されそうになる「自分らしさ」を、静かに思い出させてくれる──そんなアルバムです。気が向いたら、あなたもこの音楽を手に取って、自分なりの旅を楽しんでみてください。
それでは、また〜

いいなと思ったら応援しよう!