セピアに染まるキン消し
あんなにも 好きだった
きみがいた あの町の
林道に 落ちていた
キン消しは 飾ってるよ
いつもやさしくて
少しさみしくて
…
……
「メロディー」
玉置浩二の歌です。
学生生活最後の春休み、いや、こんなに長い春休みは人生でもきっとこれが最後だろう。
3月半ば、好きな子のいる町に遊びに行った。
好きな子と会おうとした。食事の誘い。
連絡したけど断られた。
でもその町へ行く。
他にも用事があったからだ。
(まぁ、その町に行くため、ひいてはその子と会うための口実として用事を無理やり作ったと言えなくもないが。)
駅前で自転車を借りて目的地へ走る。
目的地はダムだ。
ダムを見たんだ。
立派なダムだ。
ダムはやはりいい。
静かで安らかな気持ちになれる。
安息の地なのだダムは。
…
……
小1時間、レンガの壁に座ってダム湖を眺めた。
その後、さらに自転車を漕ぐ。
この時点で駅から8キロくらい離れている。
しかも坂道だ。大変だ。
長い七曲りを登る。
借りたママチャリの性能では上までノンストップというわけにはいかない。
途中で自転車、押して登った。
登りきった頂から眺める景色は、よかった。
その後、近くのカフェで休憩した。
カフェの店主と常連の年配の方々とたくさん話をした。
色々な面白い話を聞かせてもらった。
とてもやさしい人たちだった。
その町のことをよく知ることができた。
いい町だと思った。
住みたいとさえ思った。
好きな子がいるとか関係なく。
近くにハイキングができる林道があることを聞いた。
その林道を探検した。
そこで拾ったのがこのキン消し。
ウォッチマンというキャラらしい。
…
……
今日のこの日を、いつでも思い出させてくれるお土産に丁度いい代物だ。
あの子の住む町、そこで見たもの、出会った人、全てをこのウォッチマンが思い出させてくれる。そう思った。
忘れたくない、寂しくも楽しいひととき。
少々薄汚いがウォッチマン、一緒に帰ろう。
惨めで空虚なはずの春の旅は、小さなゴム製の追憶録を迎え、終わりを告げる。