ウェブアクセシビリティガイドラインの関連ドキュメントを活用しよう
バーンワークス株式会社の加藤です。
前回のコラム、「ウェブアクセシビリティガイドラインを理解しよう」では、ウェブアクセシビリティガイドラインとしてどのようなものがあるのか、各ガイドラインの関係性や違いなど、基礎的な部分について簡単にお話ししました。
今回のショートコラムでは、ウェブアクセシビリティガイドラインの内容を深く理解したり、具体的な実装方法について考えるのに役立つ、関連ドキュメント(補足資料)について紹介しようと思います。
今回お話しする内容は大きく下記の3点です。
関連ドキュメントって何があるの?
「解説書」で各達成基準への理解を深める
「達成方法集」から実装方法のヒント、あるいは失敗例を学ぶ
関連ドキュメントって何があるの?
国際標準としてのウェブアクセシビリティガイドラインには、W3C(World Wide Web Consortium)が勧告する「Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 」(以降、WCAG)があります。というお話は前回しました。
このWCAGには、ガイドラインだけでなく、そのガイドラインを理解するための補足資料となる関連ドキュメントが、同じくW3Cによって公開されています。
先に紹介しておくと、次のリンク先にその関連ドキュメントがまとまっています(英語ページ)。
「Supporting Documents(補足資料)」のセクションに、WCAGのバージョンごとに一覧がありますが、ウェブアクセシビリティを学ぶにあたり、とても参考になるドキュメントとして次の2つが挙げられます。
「Understanding WCAG」(WCAG解説書)
「Techniques for WCAG」(WCAG達成方法集)
わかりやすくするために以降は「解説書」「達成方法集」と日本語訳で呼びますが、それぞれ次のような用途に利用できます。
WCAG解説書
「解説書」は、WCAGを理解し、実装するための補足資料です。ガイドラインに含まれる達成基準を、より深く理解したい人向けに詳細な情報を提供しています。
例えば、
その達成基準がどのような目的で策定されているのか
その達成基準を満たすことがどのような利用者にメリットをもたらし、逆に達成基準を満たさないとどのような悪い影響があるのか
具体的な事例やブラウザや支援技術のサポートに関する補足情報
達成方法集や失敗例へのリンク
などが含まれています。
WCAGを実際に一度でも読んだことがある人であればおわかりいただけると思いますが、ガイドラインは特定の実装技術などに依存しない表記がされています(例えば、HTMLやCSSでウェブコンテンツを実装することを前提とした書き方にはなっていません)。
もし、ウェブコンテンツを実装する技術が時代と共に急速に変化したとしてもガイドラインが陳腐化しないようにするためですが、一方で読む人によっては「なんか難しい言い回しで、しかもなんか曖昧な書き方されていてわかりにくい」と感じる場合があるかもしれません。
また、ガイドライン自体にはその達成基準の細かい説明、この達成基準の目的はこうですよ、といったことは記載されていないため、ガイドラインだけを単体で読んでも理解が難しい場合もあるでしょう。
解説書はそういった部分を、達成基準ごとにかなり細かく補足してくれます。
WCAG達成方法集
「達成方法集」は、解説書よりも技術的な補足資料で、例えば「この達成基準を満たす場合、もしHTMLで実装するならこういう方法がありますよ」といった具体的な実装例をまとめたものです。
達成方法集の各項目には「G73」「H37」のように、アルファベットと数字の組み合わせでIDが付与されています。これは達成方法の分類で、一般的な達成方法であれば「G」、HTMLの達成方法でれば「H」、CSSの達成方法であれば「C」などのように分けられています。
また「F」ではじまるものは「失敗例」となっていて、よくある実装の失敗例を挙げてくれています。
「解説書」は、各達成基準の詳細を理解するのに役立ちますが、「達成方法集」は、より具体的な実装方法、あるいは失敗例をみることで、自身の実装のヒントとして参考にすることができます。
「解説書」で各達成基準への理解を深める
先に説明した通り、解説書は、WCAGを理解し、実装するための補足資料で、個人的には、ウェブアクセシビリティを学ぶ際、ガイドラインと合わせてまず最初に熟読することをお勧めする文書です。
まずは解説書に書かれている達成基準の「Intent(意図)」セクションや「Benefits(ベネフィット)」セクション、つまり、どのようなメリットがあるのかという部分を読んでみましょう。また「Examples(事例)」として紹介されているものを読むと、自分が関わるウェブサイト、ウェブコンテンツにおいて、「あの部分が該当しそうだな」といった想像ができたり、あるいは「この事例を見ると、あの部分は達成基準を満たすとは言えないかもしれない」などといった気付きがあるかもしれません。
さらに、「Sufficient Techniques(十分な達成方法)」セクションや「Failures(失敗例)」セクションは、まずは羅列されている項目名だけをひととおり見てみるとよいでしょう。
HTMLやCSS、JavaScriptといった実装技術に詳しくない人であっても、達成基準に関連する達成方法集の項目を読む程度であれば、そこまで負担はないと思いますし、特に「G」「H」「C」ではじまる項目だけでも読んでみると、なんとなく求められていることが理解できると思います。
「達成方法集」から実装方法のヒント、あるいは失敗例を学ぶ
達成方法集は、より具体的な実装方法のヒントを得ることができます。例えば、「1.1.1 非テキストコンテンツ」の達成基準に関連する達成方法として、「H37: Using alt attributes on img elements(H37: img要素のalt属性を使用する)」という項目があります。
HTMLがわかる方であれば、「img要素を使用している部分に関しては、alt属性で画像の代替テキストを提供すればこの達成基準を満たせるんだな」と理解することができます。
もちろん、代替テキストを提供する場合にもその画像が持つ意味によって例外はありますし、実際にはどのような代替テキストを提供するか、その内容(画像と「同等の目的を果たす」と解釈できるものか)の方が重要です。
また、達成方法はこれだけではないので、alt属性さえ使えばそれですべてOKという話にはなりませんが、ひとつのヒントにはなります。
一方で、失敗例はよくやってしまいがちな例がまとめられています。
例えば「完全な装飾目的で、本来は支援技術によって無視されるべき画像に対して代替テキストが与えられてしまっている」といった失敗例を見れば、「あぁ、画像だからと言って何でも代替テキストを付与すればよいわけではないのね」と理解できるでしょう。
注意しなければならないのは、達成方法集はあくまで参考例であって、ここに挙げられている実装をすべて行わなければならない、あるいはここに挙げられている実装方法以外は使用してはいけない、といった極端な理解をしないことです。
また、重要なのは達成基準をアクセシビリティ サポーテッドな方法(広く一般的に利用されているブラウザや支援技術などで利用可能な実装方法)で満たすことであって、達成方法集に挙げられている実装方法を使用することではありません。手段と目的が入れ替わらないように注意しましょう。
なお、前回のコラムでも説明した通り、WCAG 2.0とJIS X 8341-3:2016は一致規格です。よって、今回紹介した解説書や達成方法集のうち、WCAG 2.0に含まれる達成基準に関するものは、JIS X 8341-3:2016を理解したり、実装方法のヒントを得るためにも使用できますので、大いに活用しましょう。
参考リンク
さて、今回のコラムはここまで。
最後までお読みいただいてありがとうございます。もし今回の内容が少しでも参考になった、気に入っていただけた、という場合はぜひフォローしていただければ幸いです。
また次回のコラムでお目にかかりましょう。
それでは。
バーンワークス株式会社のショートコラムは、バーンワークス株式会社 代表の加藤が、ウェブアクセシビリティやユーザビリティ、HTMLやCSSなど、フロントエンド技術に関する話題を、あまり長くならない範囲で更新していくコンテンツです。一部は、バーンワークス株式会社の公式サイトにおいて、過去に公開されたコラムなどの内容を再編集、再構成したものも含まれます。
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書いている人について
加藤 善規(かとう よしき)
埼玉県出身(東京都生まれ埼玉育ち)。専門学校でメカトロニクスを専攻後、製造業での生産、品質管理や、全国チェーン物販店での店舗開発などに従事する傍ら、独学で学生時代から続けていた趣味が高じてIT業界に。
フリーランスによるウェブサイト制作業務等を経て、2004年より都内ウェブサイト制作会社に所属。同社取締役ウェブサイト制作部門統括。2014年、バーンワークス株式会社を設立、同社代表取締役に就任。
ウェブフロントエンド技術、およびIA(情報設計)、アクセシビリティ、ユーザビリティを主な専門分野とし、ウェブサイト制作ディレクション業務、コンサルティング業務の他、セミナー等での講演、書籍の執筆などを行っています。
好きなことはサッカー、フットサル (観戦 / プレー)、モータースポーツ観戦、インターネット、音楽鑑賞、筋トレ、ギター、腕時計鑑賞。サッカー4級審判員、ウオッチコーディネーター(上級 CWC)資格認定者。
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