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ウェブアクセシビリティ対応にまつわる3つの誤解を解こう

バーンワークス株式会社の加藤です。今回のショートコラムは、ウェブアクセシビリティ対応に関連して、よくある誤解について簡単にお話しします。

ウェブアクセシビリティ対応について、弊社では、日々多くのクライアント様からご相談をいただいたり、実際にそのお手伝いをする過程で、お話をする機会をいただいております。

当然ながら、ほとんどのクライアント様が、正しくウェブアクセシビリティの知識を持ち、会社、組織として継続的、長期的にウェブアクセシビリティ対応に取り組んでいくことの重要性をご理解いただいているわけですが、希にいくつかの誤解をされている方もいらっしゃいます。

そこで、今回は私の経験上、最も多い誤解、といいますか、よくある間違った理解について、3つを挙げ、それについて「こう捉えていただくとよいですよ」、という案を提示したいと思います。

今回お話しする3つの誤解を先に挙げておきましょう。

  • 「ウェブアクセシビリティは障害を持つ利用者のために特別に取り組むもの」という誤解

  • 「ウェブアクセシビリティに取り組むとデザインや機能が制限される」という誤解

  • 「ウェブアクセシビリティ対応は制作現場だけが一時的に頑張ればよい」という誤解

それでは順番にお話ししていきましょう。

「ウェブアクセシビリティは障害を持つ利用者のために特別に取り組むもの」という誤解

「障害を持つ利用者のために」の言い方を変えると、「ある特定の属性を持った利用者のために」とも言えます。つまり、ウェブアクセシビリティを限定的な利用者に対して、何か特別にやってあげるものなのだ、という考え方ですね。この考え方は改めるべきだと思います。

このお話は、以前のコラム「ウェブアクセシビリティ対応って何?(前編)」ですでに触れているので簡単にまとめます。

  • アクセシビリティは、「特性や能力が異なる多くの利用者」、つまりこの部分をシンプルに言い換えれば、「すべての利用者」を対象とした考え方であり、ウェブアクセシビリティ対応も当然ながらすべての利用者を対象に取り組むものである。

  • 「ウェブアクセシビリティはウェブコンテンツの最も基本的な要件」である。

というのが基本的な考え方で、それによって、次のようなメリットがもたらされます。

  • ウェブコンテンツがもつ情報、デザインや機能が、より多くの利用者に届くようになる、より多くの利用者にとって使いやすくなる。

  • ウェブコンテンツが「マシンリーダブル」になる。日本語で言うなら、機械可読性が高まる。

詳しくは以前のコラムをご覧いただきたいのですが、このような主張は、10年以上前から弊社の基本的な考えとして対外的にも発信しており、例えばオフィシャルサイトに掲載しているコラム「Webアクセシビリティは「おもてなし」ではない(2014年の記事)」においても、同様のことを書いていますので、もしご興味があればご覧ください。

「ウェブアクセシビリティに取り組むとデザインや機能が制限される」という誤解

これもたまに質問されることがあるのですが、「ウェブアクセシビリティに対応しようとすると簡素なデザインしかできなくなるのでは?」といった誤解です。これも明確に間違っていると申し上げることができます。

少し小難しい話をすると、そもそも「デザイン」をどう定義するかということにも関わってきます。

つまり、例えばひとくちに「格好良いデザイン」と言っても、「格好良さ」の定義は人それぞれで非常に曖昧ですし、そこには好みの問題も大きく関係します。

また、表面的な見た目だけでなく、そのデザインされたプロダクトを使用することによって利用者にもたらされる体験、いわゆるユーザー体験まで含めてデザインと考えることも一般的です。

よって先に挙げた「簡素なデザインしかできなくなる」というイメージが具体的にどのようなものなのかについては、人それぞれ捉え方があるとは思いますが、もし仮に「簡素なデザイン」の対極にあるものが、

  • カルーセルなどがぐるんぐるん動き回るなど、「動きがある」デザイン

  • ド派手な配色、あるいは細部まで作り込んだ装飾を多分に含むデザイン

などと考えるのであれば、仮にそのようなデザインを志向したとしても、ウェブアクセシビリティ対応との両立は可能です。

もちろん「カルーセルなどがぐるんぐるん動き回る」ウェブコンテンツに対する是非については人それぞれあると思いますので、ここでは、その善し悪しについて一旦脇に置いておきます。

まず、前提として、アクセシビリティガイドライン(例えば WCAG や JIS X 8341-3:2016)はウェブコンテンツ内で「コンテンツを動かすな」などとは求めていません(例外として、1秒間に3回以上の頻度で閃光を放つコンテンツについては光感受性発作の危険性からその排除が求められています)。

では何が求められているかといえば、「動いているものを利用者が止めることができる機能の提供」です(2.2.2 「一時停止、停止、非表示」の達成基準など)。

極端な言い方をすれば、別に画面上で動かしたいだけウェブコンテンツを動かせばいいと思います。それがユーザー体験を最大化すると考えるのであれば。ただし、「止めたい」と考えた利用者には、その選択肢を与えてあげてくださいという単純な話なのです。

これは配色などにも言えます。ある2色の、文字色と背景色での組み合わせが、「1.4.3 コントラスト(最低限)」の達成基準を満たさないとします。確かにその点では「制約」「制限」と言えるのかもしれません。

しかし、この制約を知った上で、配色を考え、工夫することは、考え方としては「デザインの幅が広がる」「より多くの人に届くデザインを生み出せる」と捉えることも可能です。

ごく個人的な話で恐縮ですが、例えば私はコンビニなどでお菓子や栄養補助食品などを買う場合、成分表をきっちり読みたい派です。私は特に視力が良いとはいえませんが、日常生活で眼鏡は必要ないですし、色覚異常などの問題も抱えていません。

それでも、商品によってはパッケージの色や商品のイメージ写真と文字色がほぼ同じような色、かつとても小さい文字で印刷されていることで、成分表を読むのに非常に苦労するような場合もあります。

このようなデザインは見た目的にどんなに作り込まれていようが、私個人的には良いデザインとは全く思いませんし、「これデザインした人、自分で文字が読めるか確認したのか?」という苛立ちすら覚えます。

そしてこのような問題は、デザインのちょっとした工夫、例えば文字の下にうまく背景色を敷く、文字をコントラスト比が確保できる色で縁取る、などでで防ぐこともできるのです。このような工夫こそ、デザインの面白さではないでしょうか。

商品のパッケージは、その商品さえよければ、パッケージが原因で買うのをやめるということは起こりにくいかもしれませんが、ウェブコンテンツの場合は、文字が読めなければ、そこで使うのを諦めて終わりという可能性も高くなります。

ウェブアクセシビリティを正しく理解することで、自分がデザインしたウェブコンテンツが、より多くの利用者に届き、使いやすいと思ってもらえるデザインに進化するんだということをポジティブに捉えていただきたいと思います。

なお、これは蛇足ですが、仮にアート作品のように、その視覚表現自体に意味があるようなウェブコンテンツの場合は(その視覚表現などがウェブアクセシビリティガイドラインの達成基準を満たさなかったとしても)無理に表現を変える必要はありません。

このようなウェブコンテンツでもウェブアクセシビリティを考慮することは可能ですが、今回は長くなるので割愛します。

「ウェブアクセシビリティ対応は制作現場だけが一時的に頑張ればよい」という誤解

これはあるあるなのですが、ウェブアクセシビリティ対応、例えば「ウェブサイト全体を JIS X 8341-3:2016 の適合レベル AA に準拠しよう」と方針だけ決めたら、あとは制作部門に丸投げしておけば現場が勉強してあとは何とかなるだろう、という風にウェブアクセシビリティ対応を捉えてしまう、ディレクターなど、プロジェクトを仕切る立場の方が希にいらっしゃいます。

また、そうやって丸投げしておいて、公開や、納品前の試験でチェックして「OK」さえもらえば終わり、というような考え方も間違った理解です(実際にそういう考えで公開前になって弊社にウェブアクセシビリティ試験をご依頼いただくケースもありますが、あまり良い結果になったケースはありません……)。

ウェブアクセシビリティ対応を「デザインしたり、実装する役割の人が勉強して対応すればよい」と考えてしまったり、「どこかの時点で」「何らかの試験をパスすれば」それでウェブアクセシビリティ対応は終わりだ、という風に捉える、つまり「一部の人の担当領域の話」だと、ごく狭い職務範囲で捉えたり、「一定の期間だけ頑張る、短期的な『作業』」として捉えていると、このような発想になりがちです。

しかし、このような考え方は、

  • 制作・運用プロセス全体を通して、求められるウェブアクセシビリティ要件を満たしながら業務を回していくための社内体制(人的リソースはもちろん、社内の制作ガイドラインや各フェーズでの品質チェック体制含め)を確立するという重要な段階を無視したり、軽視しがちなので、結果として特に実装担当者にのみ負担が集中し、かつその品質が属人的になって個の能力に極端に依存した状態になりがち。

  • 上記の状態で納品や公開の段階になってから第三者によるウェブアクセシビリティ試験を実施すると、その試験結果によっては納品・公開直前に大きな手戻りが発生する可能性が高まる。

    • (余談ながら)その結果、ウェブアクセシビリティ試験を担当した人など、クオリティチェックを担当した人に対してなぜか制作現場の憎悪が向いたりする(あいつが面倒くさいことを言い出すせいでリリースが遅れた、など……)。

  • 納品・公開直前に発生した大量の修正を場当たり的に修正することによる品質の低下や、これまた実装担当者の能力に依存した修正対応によるソースコードの一貫性欠如といった問題の発生(実装ルールなどが社内ドキュメントとして整備されないので、以降も同じような実装の問題が発生し続けるということも)。

  • 「とりあえず試験をパスすること」が目的になり、ウェブアクセシビリティ品質が一番高かったのはウェブサイトの納品・公開直後の一瞬だけで、その後は更新されるごとにウェブアクセシビリティが著しく低下するという好ましくない状態が発生する。

など、多様な問題の原因となります。

私は常々申し上げているのですが、ウェブアクセシビリティに取り組む上で重要(というより目標とすべきもの)なのは、「ウェブアクセシビリティへの取り組みが当たり前に組み込まれた組織、制作プロセス、あるいは運用体制の構築」であると考えています。

そのためには、ウェブコンテンツの企画(予算などの意思決定含む)から、日々の運用まで、すべての関係者が、ウェブアクセシビリティに取り組むことに対して正しい理解をし、ドキュメントやルール、品質管理体制などを含めた環境構築に組織として取り組むことが重要です。

もし、このような間違った理解をされている方がいらっしゃいましたら、正しい考え方に近づくきっかけにしていただければ幸いです。

「ウェブアクセシビリティへの取り組みが当たり前に組み込まれた組織、制作プロセス、あるいは運用体制の構築」のより具体的なアプローチなどについては、今後のコラムで少しずつお話ししていこうと思います。


さて、今回のコラムはここまで。

最後までお読みいただいてありがとうございます。もし今回の内容が少しでも参考になった、気に入っていただけた、という場合はぜひフォローしていただければ幸いです。

また次回のコラムでお目にかかりましょう。

それでは。


バーンワークス株式会社のショートコラムは、バーンワークス株式会社 代表の加藤が、ウェブアクセシビリティやユーザビリティ、HTMLやCSSなど、フロントエンド技術に関する話題を、あまり長くならない範囲で更新していくコンテンツです。一部は、バーンワークス株式会社の公式サイトにおいて、過去に公開されたコラムなどの内容を再編集、再構成したものも含まれます。

なるべく小難しくならないように書こうと努力はしていますが、できるだけ正確な用語を使用し、公式なドキュメントを参照しつつ書こうとすると、ちょっとわかりにくい言い回しになってしまったり、リンク先が英語のドキュメントになってしまったりすることがあります。ご容赦ください。


バーンワークス株式会社について

バーンワークス株式会社は、ユーザー体験を最大化する情報デザインとウェブアクセシビリティ対応を専門分野にサービスを提供する『ウェブアクセシビリティに強いウェブサイト制作会社』です。

弊社では、より本質的な視点に立ったウェブサイトの構築、アクセシビリティ対応などの関連サービス、ウェブシステム開発などを創業以来、10年以上にわたり企業、公的機関向けに提供しています。

下記のようなサービスをお求めの企業・団体様、ぜひお気軽にご相談ください。

  • ウェブアクセシビリティガイドライン(JIS X 8341-3:2016 等)に適合、準拠、または配慮したウェブサイトの構築をお求めの企業・団体様

  • アクセシビリティ対応プロジェクトの各フェーズにおけるコンサルティングや外部アドバイザーをお求めの企業・団体様

  • アクセシビリティ対応実務(コンテンツ修正や改善実装)を高いレベルで遂行できる制作チームをお求めの企業・団体様

  • 外部アクセシビリティ専門家によるアクセシビリティ試験の実施や改善提案をお求めの企業・団体様

  • UX、ユーザビリティ、アクセシビリティに優れたウェブサイトの新規構築・リニューアル構築をお求めの企業・団体様

  • CMSを活用した更新性の高いウェブサイトの新規構築・リニューアル構築をお求めの企業・団体様

  • ヘッドレスCMSやJavaScriptフレームワークを活用した高パフォーマンスなウェブサイトの新規構築・リニューアル構築をお求めの企業・団体様

  • 上記のようなスキルを持ったパートナー企業をお探しの広告代理店様、システム開発会社、ウェブサイト制作会社様など

書いている人について

加藤 善規(かとう よしき)

埼玉県出身(東京都生まれ埼玉育ち)。専門学校でメカトロニクスを専攻後、製造業での生産、品質管理や、全国チェーン物販店での店舗開発などに従事する傍ら、独学で学生時代から続けていた趣味が高じてIT業界に。

フリーランスによるウェブサイト制作業務等を経て、2004年より都内ウェブサイト制作会社に所属。同社取締役ウェブサイト制作部門統括。2014年、バーンワークス株式会社を設立、同社代表取締役に就任。

ウェブフロントエンド技術、およびIA(情報設計)、アクセシビリティ、ユーザビリティを主な専門分野とし、ウェブサイト制作ディレクション業務、コンサルティング業務の他、セミナー等での講演、書籍の執筆などを行っています。

好きなことはサッカー、フットサル (観戦 / プレー)、モータースポーツ観戦、インターネット、音楽鑑賞、筋トレ、ギター、腕時計鑑賞。サッカー4級審判員、ウオッチコーディネーター(上級 CWC)資格認定者。