ウェブアクセシビリティガイドラインを理解しよう
バーンワークス株式会社の加藤です。今回のショートコラムは、ウェブアクセシビリティガイドラインとしてどのようなものがあるのか、各ガイドラインの関係性や違いなど、基礎的な部分について簡単にお話しします。
今回お話しする内容は大きく下記の3点です。
ウェブアクセシビリティガイドラインって何があるの?
JIS X 8341-3とWCAGの関係性は?
WCAG 2.0、2.1、2.2って具体的に何が違うの?
ウェブアクセシビリティガイドラインって何があるの?
ウェブアクセシビリティガイドラインとして世界中で最も標準的なガイドラインとしては、国際標準である「Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 」(以降、WCAG)がまず挙げられるでしょう。
WCAGは、世界中の個人や組織と協力して、W3C(World Wide Web Consortium)の勧告プロセスに基づき策定されているウェブコンテンツのアクセシビリティに関する国際的な共通ガイドラインです。
WCAGは、「知覚可能」、「操作可能」、「理解可能」、「堅牢」という4つの原則のもとに構成されており、それぞれの原則に基づいて、テスト可能な「達成基準」が設けられています。
「達成基準」は、WCAGに適合するために満たさなければならない基準を定めたもので、この達成基準は「A」、「AA」、「AAA」という3つのレベルに分類されています。
W3Cの勧告プロセスにおいて、「勧告」という状態は、ウェブ標準として正式に公開された安定版となります。WCAGには現状、3つのバージョンの勧告が存在しますが、それぞれ次の通り勧告されています。
WCAG 2.0 : 2008年12月11日に勧告
WCAG 2.1 : 2018年6月5日に勧告。その後、2023年9月21日に更新版が勧告
WCAG 2.2 : 2023年10月5日に勧告
ちなみにWCAG 2.0があるなら、WCAG 1.0はどうした?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。WCAG 1.0は1999年にW3C勧告となっていますが、その後、2021年5月18日付けで廃止されていますので、現在は参照してはいけません。
なお、WCAG 2.0、2.1、2.2は「後方互換性」があるように設計されています。つまり、WCAG 2.2に適合するコンテンツはWCAG 2.1やWCAG 2.0にも適合するということになります。
逆に言えば、WCAG 2.2が勧告されたからと言って、WCAG 2.0でウェブアクセシビリティに取り組むことが駄目になったり、意味がなくなるようなこともないということです。
この、それぞれのバージョンにおける違いについては後ほど触れたいと思います。
日本国内におけるガイドライン
日本国内においては、JIS(日本産業規格 / Japanese Industrial Standards)として、「JIS X 8341-3」(正式名称は「高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス―第3部:ウェブコンテンツ」)が存在します。
JIS X 8341-3は「JIS Z 8071(規格におけるアクセシビリティ配慮のための指針)」を基本規格とし、「JIS X 8341-1 高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス」を第1部、共通規格とするJIS X 8341規格群の個別規格、第3部です。
2016年に改訂された「JIS X 8341-3:2016」が現時点における最新のバージョンで、日本国内においてウェブアクセシビリティに取り組む場合に参照されることが多いガイドラインです。
WCAGは日本語翻訳版もウェブ上に公開されているとはいえ、正式な原文は英語のドキュメントとなります。日本国内において、日本国内の利用者を対象にウェブアクセシビリティに取り組む場合においては、JIS X 8341-3:2016を選択するのが最もわかりやすいと思います。
なお、JIS X 8341-3:2016は、PDF版、あるいは印刷版が日本規格協会のウェブサイトから購入可能です。
JIS X 8341-3とWCAGの関係性は?
JIS X 8341-3とWCAG、それと関係する国際規格(ISO/IEC)の関係性についても触れておきましょう。
なお、ISOとは「国際標準化機構(International Organization for Standardization)」によって標準化された国際規格、IECは、「国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)」によって標準化された国際規格です。
次の表は、JIS X 8341-3の最初のバージョンとして制定されたJIS X 8341-3:2004を起点として、JIS X 8341-3、WCAG、ISO/IEC、各ガイドラインが制定された時系列を下記にまとめたものです。
日本国内で最初に制定された、JIS X 8341-3:2004については、各国のガイドラインを参考にはしているものの、あくまで日本独自のガイドラインでした。
その後、WCAG 2.0の勧告をうけて、その内容を包含する形でJIS X 8341-3:2010として改訂され、さらにWCAG 2.0がそのままISO/IEC 40500:2012となったことで、この国際標準規格と一致規格となるよう、JIS X 8341-3:2016として改訂されたという流れがあります。
つまり、JIS X 8341-3:2016とISO/IEC 40500:2012(WCAG 2.0)は一致規格、言い方を変えれば、全く同じガイドライン(JIS X 8341-3:2016 = WCAG 2.0)として扱うことができるということです。
この、JIS X 8341-3とWCAG、およびISO/IECの関係性について、次の図も参考にしてください。
JISは、原則として5年ごとにその内容が見直されることになっていますが、JIS X 8341-3:2016はすでにその公示から8年以上が経過しており、WCAG 2.2の勧告などもあってその改訂時期に関しては、私個人的も強い関心を寄せています。
先に説明した通り、JIS X 8341-3:2016とISO/IEC 40500は一致規格であるため、今後、ISO/IEC 40500が改訂された場合はJIS X 8341-3もその内容に合わせて改訂されることになります。
ISO/IEC 40500は、WCAG 2.2の勧告を受けてその一致規格となるよう改訂の準備が進められていますが、もし今後、WCAG 2.2がISO/IEC 40500となった場合、最終的にはJIS X 8341-3もその一致規格となるでしょう。ただし、それがいつになるかについては、現時点ではわかりません。
とはいえ、現時点においても、JIS X 8341-3:2016を用いてウェブアクセシビリティ対応を行えば、仮に改訂があったとしても、ガイドラインの仕組み上、その取り組みが無駄になることはありません。
なぜなら、先に説明したとおり、JIS X 8341-3:2016の達成基準を満たすということは、同時に、WCAG 2.1や2.2における、同達成基準を満たしている状態となるからです。
現状はJIS X 8341-3:2016の達成基準を満たすことにしっかりと取り組み、ウェブアクセシビリティ対応のための知見やノウハウを組織内に蓄積、体制を整え、今後JIS X 8341-3が改訂された場合には、その差分に改めて取り組む、というのも合理的な判断です。
WCAG 2.0、2.1、2.2って具体的に何が違うの?
WCAG、各バージョンの違いをひと言で言ってしまえば、「達成基準の数」です。
WCAG 各バージョンごとの達成基準数
次の表は、WCAG 2.0、2.1、2.2、各バージョンごとの達成基準数をまとめたものです。
先に、WCAGは後方互換性を考慮して策定されていると説明しました。つまりそれはバージョンが変わることで、前のバージョンで存在した達成基準が消えてなくなったり、その内容が大きく変わったりすることはないということなのですが、例外として1点だけ、WCAG 2.1から2.2への更新の過程で「達成基準 4.1.1」が廃止されています。
ただし、それ以外は古いバージョンの内容は原則そのまま、新しい達成基準が追加されていると理解して問題ありません。
先の表の通り、WCAG 2.0から2.1に改訂される過程で、次のように達成基準が増加しています。
適合レベル A: 25 → 30(+5)
適合レベル AA: 13 → 20(+7)
適合レベル AAA: 23 → 28(+5)
さらに、WCAG 2.1から2.2に改訂される過程で、次のように達成基準が増加しています。
適合レベル A: 30 → 31(+2 / 同時に達成基準 4.1.1が廃止されたので±1)
適合レベル AA: 20 → 24(+4)
適合レベル AAA: 28 → 31(+3)
以前のコラム、「ウェブアクセシビリティ対応って何?(後編)」では、ウェブアクセシビリティガイドラインを利用してウェブアクセシビリティに取り組む場合、大きく次の2つのアプローチに分類されるというお話をしました。
特定の適合レベルの達成基準をすべて満たす
適合レベルに関係なく、取り組みやすい達成基準をひとつ、あるいは複数選択してそれを満たす
前者のアプローチをとる場合、当然ながらWCAG 2.0と2.1、2.2では、満たすべき達成基準の数が大きく違います。
例えば、WCAG 2.0の場合、適合レベルAAに分類される達成基準をすべて満たすことを目標とすると「38」の達成基準が対象になりますが、WCAG 2.1の場合、これが「50」に、WCAG 2.2の場合は「55」の達成基準が対象となります。つまりそれだけ対応負荷は増すということです。
使用するガイドラインを選定する場合にも、無理なくはじめて、継続的に取り組める選択をする必要があります。
さて、今回のコラムはここまで。
最後までお読みいただいてありがとうございます。もし今回の内容が少しでも参考になった、気に入っていただけた、という場合はぜひフォローしていただければ幸いです。
また次回のコラムでお目にかかりましょう。
それでは。
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加藤 善規(かとう よしき)
埼玉県出身(東京都生まれ埼玉育ち)。専門学校でメカトロニクスを専攻後、製造業での生産、品質管理や、全国チェーン物販店での店舗開発などに従事する傍ら、独学で学生時代から続けていた趣味が高じてIT業界に。
フリーランスによるウェブサイト制作業務等を経て、2004年より都内ウェブサイト制作会社に所属。同社取締役ウェブサイト制作部門統括。2014年、バーンワークス株式会社を設立、同社代表取締役に就任。
ウェブフロントエンド技術、およびIA(情報設計)、アクセシビリティ、ユーザビリティを主な専門分野とし、ウェブサイト制作ディレクション業務、コンサルティング業務の他、セミナー等での講演、書籍の執筆などを行っています。
好きなことはサッカー、フットサル (観戦 / プレー)、モータースポーツ観戦、インターネット、音楽鑑賞、筋トレ、ギター、腕時計鑑賞。サッカー4級審判員、ウオッチコーディネーター(上級 CWC)資格認定者。
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