君は星、僕は探す
「ねぇ、このまま夜に溶けちゃおうよ」
防波堤の上、君が僕に言う。
首に巻いたマフラーが風に吹かれた。
「こんなに綺麗な夜だったら
こんな私のことだって隠してくれるから」
白い息が、黒い夜空に映えた。
今まで見た中で、一番綺麗だって思えたんだ。
堪らなくなって駆け寄った。
君を強く抱き締める。
「朝陽なんてもういらない。
ずっとずっと、真夜中の空。
真っ黒なその中で、深く深く手を繋ぎたい」
じゃあ、僕ら2人で夜空の星になろう。
声に、君の動きが止まる。
「ふふ、案外にアナタはロマンチスト」
柔らかく笑う君。
僕の腕を抜けて、3歩進んだ。
「でも、きっとアナタは行かないといけない。
私のことなんて忘れて、遥かな幸せな道を」
なら、星を探し続けるよ。
記憶なんて無くたって何回でも、何十回でも。
「なら、遠い空で待っているよ。
…さようなら、またね」
…………
防波堤の上。
何も無い僕はいた。
誰のかわからないマフラーを首に巻いて。
もうすぐ朝陽が昇る。
瑠璃色の空が悲しかった。
昇る朝陽が、知らない涙を耀かせる。
「君は星、僕は探す」