宵に咲いた花
初夏の帰り道。
夕闇が朱色を塗りつぶしていく。
ふと見た商店の窓には花火大会のポスター。
日付はもう少し先。
それを眺めながらあの夏を想い出した。
君が私といた、あの夏を。
君は時間よりずっと前に来てたみたいで
10分前に来た私が少し申し訳なくなった。
それを察して、気にしないでって笑う。
並んで歩き出した。
花火が上がる前でも、たくさんの人がいて
はぐれそうになる私の手を君が取ってくれた。
その日が、初めてだった。
君と手を繋ぐのは。
少しだけ気恥ずかしくて、うつむいていた。
心臓が早くなる。
今思うと、君もそうだったのかな。
なんて少し思ったりする。
普段の殺風景な道には
色とりどりの屋台がひしめき合ってた。
私はりんご飴を。
君は悩んでチョコバナナ。
少し行ったところに開けた場所があって
そこで夜空を見上げた。
昇る花火は大輪の花を
宵色のキャンバスに描いていく。
私たちは一瞬の絵を楽しんだ。
この時間がずっと続いてほしいと願う。
一際大きな花火が尾を引きながら登っていく。
今日一番の大きな音が体に響いた。
私たちは空を見つめていた。
消えていく絵を焼き付けるように。
懐かしい想い出の中の二人は
ずっと笑っていて、幸せはこのまま続くと
そう思っていたんだ。
学生の頃の淡い恋愛。
消えていく花火みたいに終わっていった。
それでも、私には
それが凄く大切で綺麗な想い出。
もう隣に君はいないけれど
花火を見に行こうか。
そんなことを考えながら空を見上げた。
夕闇はすっかり辺りを包んでいて
私は足早に家路を歩んだ。
「宵に咲いた花」