罪悪を知る
あの日、僕は500円玉を握りしめた。
たった一枚。
それは、彼の落としたもので
魔が差したんだ。
気づかない彼を見て
このままポケットに押し込んだ。
黙って後ろをいく。
駄菓子屋に着くと
彼は焦った様子で500円玉を探す。
そんな彼を励ましつつ
もともと持っていた300円でお菓子を
買って分けあった。
感謝に
心の奥がじくじくとした熱を持ち始める。
痛むような、高揚するような
よくわからない感覚に襲われていた。
このポケットに入った500円玉を
返してしまえば、この感覚から解放されるのか。
太陽が傾き、町を朱色に染め上げていく。
結局別れる時までに僕は言い出せなかった。
君が今日はありがとう、そう背中を叩く。
僕にそんな資格はないのに。
自身の心の弱さが嫌になって
夕闇の中で涙を溢した。
『罪悪を知る』