魔法様
短足で見た目も良くない。
だけども気の優しい彼。
この人がやたらと気になっている。
…いや、恋愛的な意味ではなくて。
小さな頃から見た目も変わらず
定職についてる感じもしない…。
でも、地域の人たちは彼を遠ざけたりしない。
そして、彼は積極的に人助けをしている。
畑の作業を、ごみ拾いを、草刈りを…
道いく老人の手をひいて歩いていたり、
小学生の見送り隊の中に混じっていたり…
ますます謎しかない。
なんなら一番謎なのは、彼の名前。
「魔法様」
「魔法さん」
なんて呼ばれているのだから。
何度も何度も後をつけてみたのだが
必ず神社の前で見失ってしまう。
町のおじいさんやおばあさんに聞いても
ニコニコしながら話をはぐらかされる。
まったく、彼は何者なのか…。
その謎はあっさりと解決する。
町の寄り合い、なんでか私も一緒に連れていかれる。
炊き出しの手が足りないとのことだった。
ぶつくさ文句をいいながら、作業をする。
広間の方から、大人たちの騒がしい声。
お駄賃は全員からぶんどってやろう。
そう心に決めた。
ふと、魔法様がこちらに来た。
「なにか手伝うことはあるかー?」
のんびりした声と、酒の匂い。
酔っぱらいに頼むことはありません。
「あらー、そうかー」
と、やっぱり間の抜けた声。
振り向いた彼の尻に…
たぬきのしっぽ!?
大人たちのところに走っていく。
魔法様にしっぽがあることを、早口で捲し立てると
みんな、ポカンとしていた。
はっとする、そりゃあそうだ。
人の尻にたぬきのしっぽが生えているなんて
いまの時代、だれも信じない…。
あれ?知らなかったのか?
と、大人たちはそんなことを言ってきた。
どうやら、魔法様はこの地域の守り神…、
もとい、守り狸らしい。
みんな、普通にそういうものだと
受け入れているらしい。
まあ、本人はうまく隠しているつもりらしいが、
如何せんどこか抜けているので
尻尾が出ていたり、耳がでていたり…
口々にそう言う大人たち。
…それに気づかなかった私が一番間抜けでは?
心のなかで悲しくなった。
戸の方から、私が持ってこようとしていた
天ぷらの盛り合わせをもって魔法様が来た。
「うまいの持ってきたぞー。」
その間の抜けた声で笑ってしまった。
まあ、悪いものじゃないしいいか…。
岡山県加茂川町 魔法様のお話