ジョン・ドゥと墓守の少年
ぼくはきょうもつちをほる。
ふかく、かたいつちをほる。
おおどおりの、ぱんやのおばさん。
のんだくれてた、おじいさん。
ろじうら、かぎやのおとこのこ。
ぼくのしりあい、なつかしい。
はかばのなかをあるいてく。
みしったなまえがたくさんあるね。
くらいくらい、よるのはか。
あかるいところはにがてだよ。
くろねこがにゃー、とないていた。
ぼくも、やぁとあいさつをかえすんだ。
ランタン、ひとつ。
スコップ、いっぽん。
さぁ、きょうはきみのおはかにしよう。
ざくざくざく。
ざくざくざく。
かたいひつぎに、こつんとあたる。
ていねいに、ていねいに。
きみのひつぎをこわさぬように。
ぎぃぎぃ、ぎしぎし。
ふたをあけよう。
…………
…やぁ、こんばんは。
「うぅん、ここは?」
ここは、はかば。
きみは、なんねんかまえにしんだんだ。
「へぇ、どうして?」
そうだね、たしか…。
かたいものであたまをわられて。
「あぁ、どおりで。
あたまがすーすーするよ」
さて、きみはせんたくをしないといけない。
そのことをつたえたくて、おこしたんだ。
「せんたく?
それはいったいなんなんだい?」
ひとつは、このままねむっているか。
「ふんふん、ほかは?」
ふたつめは、きみのあたまにあなをあけたやつ。
そいつにあいにいく。
「…つまり、それは」
そう、ふくしゅうをするけんり。
どっちでもいいよ、きみはじゆうさ。
「そうだね、それじゃ…」
…………
こんこん、こつこつ。
どんどん、ばんばん。
『おい、こんなよなかになんだってんだ。
うるせぇおとたてやがって』
『ん、なんだ?
おまえはだれだ?』
「やぁ、ひさしぶり」
『ひ、ひぃっ!
おまえは、なんで!?
どうした、ここに!!?』
「あのひはかぜのつよいひだったね。
きみのかおをみておもいだしたよ」
『わ、わるかった…!
た、たすけてくれよ
おれたちともだちだったろ?』
「あぁ、ともだちだった。
…でも、むかしのはなし。
おまえは、ぼくをうらぎった」
『だって、しかたなかった!
かねがひつようだったんだ!!
たのむ、こどももいるんだ!』
「ぼくにもこどもはいたよ。
かえってこないぼくをまって
しんでしまったみたいだけれどね」
『いやだ、いやだぁぁぁぁぁ!!』
ゴッ
ゴッゴッ
ゴッゴッゴッゴッ!!
おわったみたいだね。
「あぁ、きみか。
こんなきかいをくれてありがとう」
いやいや、いいよ。
わるいやつのたましいがひつようでね。
…よっと。
ほら、みてみるかい?
「へぇ…、あおぐろいひのたまか。
こびんにいれるとランタンみたいだ。
あんがいに、きれいないろなんだね」
にくたいがつみをおかすと
たましいは、あおいいろにそまるのさ。
ほんとうは
きんいろをしているのだけれどね。
「ぼくのいろは?」
きみも、きれいなあおさ。
「そっか。
つかうかい?」
いやいや、きみのはいいんだ。
よみがえったばかりのにんげんのは
つかえなくてね。
「ふーん。
さて、ぼくはこれからどうしよう」
いっただろう、きみはじゆうさ。
しばらくのあいだだけれどね。
「なるほど、なるほど。
じゃあ、そうだな…」
うばわれたじんせいのたのしみを
とりかえすのがいいだろう。
「…きみのしごとをてつだおうかな。
たぶん
それがいちばんたいくつしなさそうだ」
へぇ、ものずきだね。
…いいよ、つちをほるのもたいへんだしさ。
「じゃあ、これから
しばらくよろしくね」
うん、よろしく。
…なまえは、たしか。
「ジョン・ドゥでいいよ。
…いきてたときのなまえなんて
ひつようないからね」
そうか、ジョン。
かえろうか、ぼくらのいえへ。
…………
くらいくらい、よるのみち。
あおくてくろいランタンが
ぼくらのいえじをてらしてる。
そらにはきらきらおほしさま。
なんにもいわずに
ぼくらをみている。
さぁ、かえろうか。
はかばのなかのちいさなこやに。
まっかにそまったおきゃくさま。
ひさしぶりのともだちさ。
「ジョン・ドゥと墓守の少年」