ユーレイのともだち
ぼくはユーレイ。
このまちみんなのともだちさ。
そこをあるくおじいさんが
ほんのこどもだったころから
ぼくはこのまちにいるんだ。
…
あるひからぼくは、そこをいそぐ
かれにあいさつをするのをにっかにしてる。
いつだったか、かれからあいさつをされたのが
はじまりだった。
かれは、おそらくぼくのわきにいた
くろねこにあいさつをしたんだろうけれど
ふふふ、だれにもみえないぼくには
それがうれしかったんだ。
…
つきひがすぎて、きみは
こどもからおとなになっていく。
ぼくは、かかさずにあさのあいさつをした。
たのしそうなきみも
かなしそうなきみも
ぼくはみてきたんだ。
だけど、そんなにおもいつめるようなかおは
はじめてみたんだ。
…
どうしたの?
もちろんきこえないんだろう。
それでも、ぼくはしつこくなんどもといかけた。
たかいビル。
むかし、むかしに
だがしやさんがあったばしょのあのビルさ。
きみは、カンカンと
かいだんをのぼっていく。
ぼくは、きみのあとをおいかける。
ビルのおくじょうからは
とおいまちまでみえるんだ。
にしびが、ぼくらをあかくいろづける。
きみはバックをひらいてふうとうをとりだした。
…
「ダメだよ」
ぼくのことばにきみがびくりとはんのうする。
ゆっくりとふりかえったきみは
おどろいたかおをしてる。
ふだんだったら、わらってやるのに。
ぼくはそうおもいながら
もういちど、つぶやいた。
「ダメだよ、やめて」
…
ことばもでないんだろうね。
ぼくはぬのをかぶった、ユーレイだもの。
そんなものにこえをかけられたら
だれだっておどろくよね。
こうつごうだ。
そのままかたまっていて。
「ユーレイは、こどくだよ」
「みちをあるいていても
だれともてをつなげない」
「だれにあいさつをしても
かえってなんてこない」
「きみはこんなかなしいものに
ならなくていいんだよ」
「あのひ、きみがすくおうとしたあのこは
えがおで、てんにのぼったよ」
…
そのことばをきいて
かれは、おおつぶのなみだをながしはじめた。
「すくえなくても、すくおうとした」
「きみは、りっぱないしゃだ」
「きみにみとられたひとたちは
みんなえがおだったよ」
「きにやむな、なんてむずかしいよね。
でも、それでもむねをはっていいんだよ」
やさしいやさしい、おいしゃさんは
ひざをついてかおをおおった。
…
かれがなきやむまで
フェンスのうえにすわってそらをながめた。
ことばは、とどいた。
やさしいかれのことだから
すこしずつ、たちなおるよ。
だから、だいじょうぶ。
かれなら、だいじょうぶ。
ぼくはね、きみのともだち。
きみはぼくのことなんてしらなくていい。
でも、ぼくはきみのいいところを
ぜんぶしっているんだから。
「ユーレイのともだち」