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ユーレイのともだち






ぼくはユーレイ。

このまちみんなのともだちさ。


そこをあるくおじいさんが

ほんのこどもだったころから

ぼくはこのまちにいるんだ。



あるひからぼくは、そこをいそぐ

かれにあいさつをするのをにっかにしてる。


いつだったか、かれからあいさつをされたのが

はじまりだった。


かれは、おそらくぼくのわきにいた

くろねこにあいさつをしたんだろうけれど

ふふふ、だれにもみえないぼくには

それがうれしかったんだ。



つきひがすぎて、きみは

こどもからおとなになっていく。


ぼくは、かかさずにあさのあいさつをした。

たのしそうなきみも

かなしそうなきみも

ぼくはみてきたんだ。


だけど、そんなにおもいつめるようなかおは

はじめてみたんだ。



どうしたの?

もちろんきこえないんだろう。


それでも、ぼくはしつこくなんどもといかけた。


たかいビル。

むかし、むかしに

だがしやさんがあったばしょのあのビルさ。




きみは、カンカンと

かいだんをのぼっていく。


ぼくは、きみのあとをおいかける。


ビルのおくじょうからは

とおいまちまでみえるんだ。


にしびが、ぼくらをあかくいろづける。

きみはバックをひらいてふうとうをとりだした。



「ダメだよ」


ぼくのことばにきみがびくりとはんのうする。

ゆっくりとふりかえったきみは

おどろいたかおをしてる。


ふだんだったら、わらってやるのに。

ぼくはそうおもいながら

もういちど、つぶやいた。


「ダメだよ、やめて」



ことばもでないんだろうね。

ぼくはぬのをかぶった、ユーレイだもの。


そんなものにこえをかけられたら

だれだっておどろくよね。


こうつごうだ。

そのままかたまっていて。




「ユーレイは、こどくだよ」


「みちをあるいていても

 だれともてをつなげない」


「だれにあいさつをしても

 かえってなんてこない」


「きみはこんなかなしいものに

 ならなくていいんだよ」


「あのひ、きみがすくおうとしたあのこは

 えがおで、てんにのぼったよ」



そのことばをきいて

かれは、おおつぶのなみだをながしはじめた。


「すくえなくても、すくおうとした」


「きみは、りっぱないしゃだ」


「きみにみとられたひとたちは

 みんなえがおだったよ」


「きにやむな、なんてむずかしいよね。

でも、それでもむねをはっていいんだよ」


やさしいやさしい、おいしゃさんは

ひざをついてかおをおおった。



かれがなきやむまで

フェンスのうえにすわってそらをながめた。


ことばは、とどいた。

やさしいかれのことだから

すこしずつ、たちなおるよ。


だから、だいじょうぶ。

かれなら、だいじょうぶ。


ぼくはね、きみのともだち。


きみはぼくのことなんてしらなくていい。

でも、ぼくはきみのいいところを

ぜんぶしっているんだから。


          「ユーレイのともだち」

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