百合間挟男だって尊重されるべき個人だ─真の多様性社会を望む者の訓話─
国道を走る車の走行音が湿っぽい。
展望台の東屋から見下ろす春の海には絹糸のような雨が降り注いでいる。
白い雲の生地と青い海の生地を一針、また一針と繋ぎとめるように降っている。
明け方の、静謐の森、ベンチの隣の存在が暖かい。
私の左手、彼女の右手の指が絡み合ってお互いの存在を繋ぎとめるように────
「アレぇ!?カノジョたちも雨宿りぃ?」
「…………」
「いやぁ、急に降ってきたよねwそこ座らしてよwww」
やっぱ……百合の間に挟まる男は……最高やな!
そう思うだろ? あんたも!!!!
と、いうわけでね。今回は「百合の間に挟まろうとする男」「多様性を認めるとは?」の二つのことを絡めて考えていきたいんですけれども。
現代オタクの間では絶対の律法の如くに語られる「百合にチャラ男を突入さすな」「その場合はその旨を明記しろ」なるお気持ちですが、その考えは傲慢だぞと、こちらもお気持ち表明せざるを得ません。
この記事を開いたということは、そうなのか?
あんたもそうなのか!?
「オレは女の子と女の子の関係性を観測したいのであってチャラ男の性欲が見てえわけじゃねンだよ」
そういう気持ち、分かります。僕だって見たくありません。
けれどもね?女の子と女の子が築き上げようとしている関係性を尊重するのと同じように、チャラ男が築き上げようとしている関係性も尊重してあげないとダメなんですよ。同じ対等な一人の人間なんですから。
基本的人権って知ってますかぁ?
20代、女、虐待被害経験有、貧困。
50代、男、痴漢の前科有、貧困。
この二人のうち、先に経済支援をするべきでしょうか?
答えは…………沈黙。
どちらが先にとか判断出来るものではありません。どちらにも平等に支援を受ける資格があります。
少女が少女となんらかの関係を結びたいと望むこと、チャラ男がその少女と関係性を築きたいと願うこと、それを共に尊重しなければ基本的人権の精神は人類に根付くことはないでしょう。
多様性を認める社会とは
現代社会のキーワードとなっている「多様性」という言葉。
このポリティカルコレクトネス?コネクトレス?な精神は、自分にとって不都合・不利益・不愉快なものが存在することを許容しなければ成し遂げられません。
ゲイポルノ映像作品を切り貼りした動画でゲラゲラ笑う日陰者にも隣人愛を持って接しなければなりません(肖像権とか著作権、名誉棄損とかの話は別)。
なぜ多様性が大事なのか
なぜ日本のマンガ・ラノベ・ゲーム・アニメが世界一の面白さを持っているかというと(実際世界一でしょ?質と量を考えたら)、それは多様性への縛りが少ないことが重要な位置を占めていると筆者は考えます。
言い換えると、宗教的・人種的なタブーが少ない、と
無理に黒人を活躍させなくていいし、キリストとブッダがアパートで同居してもいい。
じゃあチャラ男がレズの片割れを寝取ってもいいよね?
僕だってさぁ、最初はNTRが嫌いだったよ? でもさぁ、今ではそのNTRが“救い”になってるのよ。
嫌悪感を感じるからといって作品を弾圧するようになったら僕が救われることは無かった。なんだったらキミも救われちゃったら?
ヘイトを吐き出す娯楽に興じる現代オタクの暴走を危惧する筆者の訓話─one last kiss─
現代オタク達が言う「百合の間に男を挟むな」っていうのは、ほとんどの場合確たる信念があって言ってるわけではなく、仲間内のコミュニケーションというか…思想のトレンドにあわせてネタ的に消費してるだけなんだと思います。こういうの、イデオロギーっつうんですかね。
仲間内で同じ思想を共有して、聖句を唱えて団結を深めるSNSのオタク達よ。
かつて、ユダヤの思想を共有している者らは姦淫の罪を犯した女に石を投げていました。そこへイエスが現れ、「百合でシコったことのない者だけが石を投げよ」と言い、男たちがすごすごと退散すると、石を投げているのはイエスただ一人となりました。
仲間内で思想を共有して感情のアウトソーシングを続けていたら社会的に望ましいことと自分の好きなものの区別がつかなくなってしまわないかい?
それでも百合の間に男を割り込ませることを拒否するならその感情は尊重されるべきことですけどね。
チャラ男クンは悪人じゃないんだ。尊重されるべき個人なんだ。どうか、彼の生き様を見守ってやってくれ…………。
チャラ男クンのご終章さま
「──いいですよ」
「え?」
「そこにいたら濡れちゃいますよ。座ってください」
私と彼女はベンチの両側に腰をずらし、ひとりぶんのスペースを空けた。
「え、あ、いいの?」
「なんども言わせないでください。ここからならいい景色が見えますよ」
展望台の東屋から見下ろす春の海には絹糸のような雨が降り注いでいる。
やがて白い雲、青い海の間に赤い朝日が顔を出し、雨を温めていった。
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