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日本人の100人に1人がひきこもりという衝撃。その一方、ひきこもりがいなくなった町がある

内閣府が、3月29日(2019年)に全国に40~64歳のひきこもりが61万3000人にいるという推定値を発表した。中高年のひきこもり調査は、これが初めてである。

15~39歳を対象にした前回の調査では、全国にひきこもりは54万1000人と推計されていた(2015年)。これらを合わせると、日本には100万人以上のひきこもりがいることになる。つまり、日本人の100人に1人がひきこもりなのだ。

ひきこもり支援で有名な藤里町

2016年9月にひきこもり支援で有名な藤里町に取材にいってきたことがある。藤里町の社協の職員二人から聞いた話をまとめた。一人は元ひきこもりの方だった。

※太字はインタビューアーである僕です

引きこもり調査、訪問による聞き取りに3年かかったようですが、今考えると他のやり方があったと思いますか?

今も調査は継続中で終わったわけではない。たた、ひきこもりとしてカテゴライズしたくないというのはあった。


その一方でひきこもりとしてカテゴライズしないと予算が下りないというジレンマがあった。だから、ひきこもり者及び長期不就労者及び在宅障害者支援等事業にしている。

ほかのやり方があったかは聞けず……。

藤里町でのやり方は人口の多いところでも可能か?

各自治会単位でやればある程度は可能かもしれない。藤里町は他の行政サービスがないため、社協が老人介護を含めてほとんどの福祉サービスをおこなっている。

老人介護をしているときにその方のお孫さんの状態を聞くことができる。あとは同窓会や町内会、祭りなどでの地域のつながりの中で情報を集められる。そして、該当者と思われる人たちをピックアップして名簿にして「こみっと」のチラシを持っていく。
(※「こみっと」とは、藤里町の社協の施設のこと)

各サービスを提供する機関が多い市町村だと情報の一元化、共有化が個人情報の絡みや縄張りで難しい。福祉資源が少ないことが逆に上手く作用している。

居場所より働く場を求める人が多かったとのことだが、こちら(埼玉県)ではそうとも言えない。仕事より居場所を求める人はやはり現在も少ないのか?

居場所を求める者は少ない。仕事関係のことでないと人は来ない。介護の資格や職業訓練校などの情報を提供するイベントを告知すると人は来る。

しかし、来た人たちを囲い込まないことを考えている。「こみっと」はあくまでも通りすぎる場所であり、理想としてはなくなったほうがいい。今は、就労したものの仕事で悩んでいる元登録者の相談も引き受けている。

仕事をし始めてまた引きこもりになった人はいるのか?

いなくはない。しかし、数は少ない。

居場所はいらない。仕事が欲しい

居場所ではなくほとんどの人が仕事が欲しい、仕事をしたいというのが印象に残った。考えてみれば、地域の繋がりが強いのにいまさら居場所なんてということかもしれない。

一方、核家族化が進んで地域の繋がりが弱まっている都市部ではひきこもりの居場所のニーズがある。

「こみっと」というお食事処でそばや舞茸キッシュなどを販売しているが、菊池まゆみ現社協会長がそのアイディアを出して実行に移している。

今は、うどんも販売をしており会長と何人かで香川県に研修に行ったという。社協がそこまでやるというのがすごい……。

こみっとの工賃は110~500円。最低賃金は適用されないのでこれは障害者の就労継続支援B型と同じやり方のようだ。また、公的施設の清掃などの仕事もある。

こういう仕事をどうやって開拓したかというと、社協と地域とのつながりからだという。もっとも清掃業者の入札で競合するところがないのが大きいらしいが。

町議会は社協に対してどのような支援をしているか聞いたところ、町長が今の「こみっと」の場所が空いているから使っていいと言ってくれたらしい。

施設がかなり充実しているからその予算はどこから下りているのか聞いたが、日本財団などいろんな制度を利用してお金を集めたという。

ひきこもりがいなくなった町と言われているが本当か

2018年にBSの日テレNEWS24でひきこもり特集が放送された。そこにひきこもりに詳しい斎藤環医師も出演していた。藤里町のことも取り上げられていた。

「藤里町のひきこもりの人たちが最終的にどこで働いているのか」というアナウンサーの質問に対して、斎藤環さんの説明がちょっと曖昧だった。「たぶん『こみっと』で働いている人が多いのではないか」と。

上記に述べたとおり、「こみっと」の工賃は110~500円ほど。福祉的就労に近い形なっている。

だが、菊池まゆみ社協会長のインタビューをみると、「自立した方のほとんどが一般就職で、数は少ないですが、障害者の方の仕事の定着率もかなり高くなっています」(2017年12月)となっている。

菊池さんのほうが、藤里町の現状に詳しいからおそらくこちらが正しいと思う。藤里町のやり方を真似れば、日本のひきこもりは激減するのだろうか。

都市部では、藤里町のやり方はできないが、藤里町と同じような地方自治体ならそれを試す価値はあると思う。

ただ、菊池さんは、「一般就職で自立した人がほとんど」と言っていたが、仕事先を藤里町だけで提供するのは考えにくい。そうなると、元ひきこもりの人は、町から出て働いているのだろう。

追跡調査がないと、仕事の定着率や離職率がわからない。また、ひきこもっている可能性がある。藤里町にいるときに就職が決まったからと自立とカウントするのはいささか尚早だ。町から出たあとも捕捉していないと藤里方式が有効か判断しにくい。

藤里町の抱えていた問題

秋田県は11年連続で自殺率全国ワースト1だった。地元の住職がコーヒーサロンを開設して町民の悩み事を聞くなどして自殺者を減らしていった。残念ながら、僕の日程とサロンのオープン日が合わず、見学することはできなかった。

また、藤里町は2006年に連続児童殺害事件が起きた町だった……。メディアでも大々的に報道されていたからおぼえているが、さすがに町の名前までは記憶に残っていなかった。

藤里町と言えば、ひきこもり支援というイメージしかなかったが、秋田の親戚に聞くとあの町にあまりいい話は聞かないと言っていたので調べたところ、そういうことだったのか。

藤里町の人口の推移

2010年の調査でひきこもりが町に113人いたが2014年には25人まで減ったという。これはすごいと思ったが、町の人口の推移を調べた(藤里町のHPを参考にした。全部8月時点の人口で統一させた)。

2006年は4293人
2010年は3974人
2014年は3657人
2016年は3523人

2006年から2016年のたった10年で700人以上も人口が減っているのが衝撃的だった。町を出た人のひきこもりの割合を調べたかったがそこまではできず……。

藤里町というと、自分の中ではひきこもり支援で有名ということしか頭になかった。しかし、その陰では11年連続で秋田県が自殺率全国ワースト1になったり連続児童殺害事件が起きたり、町の人口減少などの様々な問題を抱えていたことを知った。

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ひきこもり男子の日常
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