勝手に沼レビュー・第二回世界の戦場イラストレイテッド3／カセリーヌ峠の戦い1943

2020年5月7日 20:17

次号のアーマーモデリング誌は砂漠の砂埃表現特集！　まだ書影は出ていませんが非常に楽しみです。

砂漠の戦いというとイラク戦争や湾岸戦争
中東戦争、そしてWW2のアフリカの戦いなど魅力的な素材がありますが、今回はそのアフリカ戦終盤の戦いをフィーチャーした大日本絵画刊オスプレイ・ミリタリーシリーズ「カセリーヌ峠の戦い1943」を勝手に沼レビュー！

原著を出しているOsprey Publishingは60年代末に設立された軍事・歴史書に特化した英国の出版社ですが
戦車や航空機、軍艦など一冊一種にまとめたNew Vanguard(世界の戦車イラストレイテッド等)シリーズ
様々な時代の兵士の装備や軍装、戦術を紹介したMen-at-Arms (世界の軍装と戦術)シリーズ
陸海空の実際に起きた戦闘での代表的兵器を検証したDuel(対決)シリーズ
など多くのシリーズがあり、他にもAircraft of the Aces(世界の戦闘機エース)やFort(世界の築城と要塞イラストレイテッド)シリーズなどがあります。　　　　　※括弧内は全て大日本絵画から出ている翻訳シリーズ名です

日本語訳が出ていないものでも
部隊構成が分かるBattle Ordersや
特殊部隊の装備や活躍を纏めたElite
車種、機体別の模型製作本 Modelling
など魅力的な本が出版されています。

どのシリーズもカラーイラストや図表、写真で分かりやすく解説してくれています。
実はOspreyは日本でも有名なブルックボンド紅茶の子会社として生まれました。
60年代に入ってブルックボンドは商品の紅茶に様々なシリーズのイラストカードを付けていましたが、その中で航空機シリーズが人気でした。

こんなブルックボンド・ティーカードの本もあるぐらいです。

その人気から書籍を出す為に立ち上げられた出版社がOspreyだったのです。
※現在では別の会社に吸収されています

さて、今回紹介するのはCampaign(世界の戦場イラストレイテッド)シリーズからですね。
著者は米軍やソビエト〜ロシア軍ファンに有名なSteven J. Zaloga氏
元アメリカ国防省のアナリストも務めた方で
モデラーとしても素晴らしい腕でMilitary modeling誌のライターもされていました。
何より前途のModelingシリーズでのModelling the US Army M4 (75mm) Sherman Medium Tank で今までエンジンや砲などで区別していたシャーマンを
製造メーカーごとの違いで区別して一気に深化させた凄い人なんです！

さて中身ですが、8つの章に分かれ、米軍がトーチ作戦によりアルジェリアに上陸後、ドイツ軍と戦うまで。
フォン・アルニムとロンメル、二人の司令官の確執とフリーデンダールをはじめとした連合軍の司令官について。
枢軸・連合両軍の戦闘序列と地図と図解による両軍の作戦計画と進展。
チュニジア緒戦、シジ・ブ・ジッド(Sidi Bou zid)における連合軍、特に機甲戦に不慣れな米軍の大出血。
そしてカセリーヌでの戦いとロンメル苦渋の決断。
パットン将軍の登場とチュニジア戦後半のエル・ゲタール(El Guettar)の戦いからチュニジア戦での連合軍の勝利、作戦の回顧が書かれています。

また陸戦だけでなく、枢軸側の空における補給線を叩いたボン岬沖での航空作戦Operation Flaxについても取り上げられています。

写真のチョイスもチュニジア戦らしさが出ているものが多く、戦史を知るだけでなくモデリングの資料としても最適です。

砂漠というと風化により岩盤が露出している岩石砂漠、その岩が剥落して出来た石礫や砂利がメインの礫砂漠、一面細かい砂の海という砂漠と聞いて一番イメージされる砂砂漠と3種類あるが、一番多いのが岩石砂漠だそうです。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　チュニジアはサハラ砂漠があるものの、その多くは岩石砂漠に礫砂漠。特にカセリーヌあたりは土の少ない荒涼とした荒地といった感じですね。

岩石が多い地形という事もあり、米兵は個人塹壕が浅く、砲撃や戦車による被害も少なくなかったようです。

因みにチュニジアは２月頃まで雨季のため川に水がある状態です。

それでもこの写真だと水嵩は高くないようですが、雨季に増水や鉄砲水で死者も出る事があるそうです。

この写真は時期が異なるため手前の川に水がないですね

その後のチュニジア戦後半、El Guettarの戦いあたりだと緑は多くなります。

サボテン畑もチュニジア戦っぽいイメージですね。

機械化が進んだ米軍でも旧式装備もそれなりにまだあって、155mm榴弾砲M1918とかもその一つ

M3 37mm 対戦車砲も決して古くはないですが、ドイツ軍戦車相手には厳しいでしょう。

米軍はすでに主力がM4シャーマン系列になりつつあるものの、M3 リーやM3スチュアート系列も配備されていました。
カセリーヌ戦の特徴として、アフリカとはいえ2月、特に夜は寒いのでタンカースやコートを着た乗員も多いです。

緒戦の米軍はバカスカやられています
カセリーヌ戦時の主力戦車駆逐車というと、まだ仏製75mm砲を積んだM3 75mm対戦車自走砲でした。
運用のまずさからカセリーヌ戦では活躍できませんでしたが、その後のEl Guettar戦では集中運用により601戦車駆逐大隊は30両の戦車を撃破しましたが、36両中24両を失いました。

M4も乾式弾庫は誘爆しやすかったそうで、破損状態も砲塔が外れたり車体が裂けたりしています。

この上下の写真のPressed Steel Car製M4A1(DV)「HONKY TONK」号は見所が多いです。
直視バイザー付きのスモールハッチ車体にM3型VVSSを付けた車両ですが、後部ライトガードがまだ取り付けられて無かったり、スプラッシュガード無しのワンピースデファレンシャルカバーやエンジンデッキの物置き？用レールが取り付けてあったり、 M34砲架のリフティングリングの位置が外側になり砲塔のリングも下に下がっています。また、M3型VVSSと言っても最後尾のそれと異なり手前二つのは転輪を支えるアームが既にM4仕様となっている点に注目です。
(オタク特有の早口)

この車両は破損が酷いです
車体側面下端にポチポチと付いているのはサンドシールドの座金です。

この写真は本にも載っている一葉
街道沿いを進軍中にやられたようです。

鹵獲された車両は慢性車両不足のドイツ軍に再使用されたりしています

オリーブドラブ一色では目立つので、泥で迷彩されています、多分米軍が施したものでしょう。

泥迷彩といえばこちらのJames simmerman少佐のMajor Jim号もそうですね。
アーマーモデリング誌2010年4月号(vol.126)のシャーマン道PLUSに作例が載っています。

ドイツ軍やイタリア軍もやられています。

破損状況が激しいですが鹵獲されないよう爆砕されているのもあるでしょうね。

果てはTiger 131号車を鹵獲され(英軍にですが…)その後レストアされたりしてボービントンに展示され、後の我々も映画FURYで楽しませていただきました。

巻末付録として原著には無い501重戦車大隊のTigerと8輪重装甲偵察車の写真が数ページ掲載されています。

そんな感じで今回は砂漠の車両のイメージソースにオススメなこちらをレビューしました！　　　　　　　　Highly recommended！

オスプレイ・ミリタリー・シリーズ
世界の戦場イラストレイテッド3／カセリーヌ峠の戦い1943 ロンメル最後の勝利
スティーブン・ザロガ著
三貴雅智訳
大日本絵画刊　2009年

他にもチュニジアの連合軍車両の資料としてオススメなのがこちらの本

世界の戦車イラストレイテッド3／チャーチル歩兵戦車1941-1951
http://store.modelkasten.com/shopdetail/017002000003/
※残念ながらカステンだと今はコロナの影響で注文停止になっています
上記のティーガーを仕留めたのも48th Royal Tank Regimentのチャーチルでした。

そしてチュニジアで破壊されたシャーマンはじめ連合軍車両の写真とマーキングがいっぱいなこちらの本
THE OLIVER PUBLISHING GROUP[UnderTheGun_2]
First Blood US 1st armored division in Tunisia
https://www.msmodelswebshop.jp/product/4084