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名前のない庭

誰にも呼ばれない名前を抱いて、
子どもたちは歩く。
居場所という言葉が、
遠い夢のように揺れる夕暮れ。

壊れた靴音がリズムを刻むたび、
心の隙間に風が吹き込む。
知らない街、知らない声、
自分だけが知る孤独の色。

だけど、草むらの奥に広がる庭がある。
名前のないその場所には、
かつて同じように
迷子だった影が隠れている。
木漏れ日のような優しい手で、
触れることもせず、
ただそっと見守る人たち。

私もあの庭の片隅で、
小さな光を掬い上げられた一人だった。
手を差し伸べる大人の声が、
壊れた靴音に響きを与えた。

今、私はその庭の一部になる。
枯れた花に水を注ぎ、
新しい芽が息をする景色を描く。
迷子の子どもたちが
足を止められるように、
その小さな影が、
大きな空に伸びる道を見つけるように。

名前のない庭で、
居場所の物語が静かに始まる。

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