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金持ちの景色 〜目指せセレブの会1〜

2024年11月2日


幼少期、お金には上限があって、それ以上は存在しないと思っていた。

その金額、100万円。

平成初期〜中期のテレビ番組では、「〇〇成功で100万円!」と銘打った番組が雨後の筍のようにひしめいていた。おそらくそれらの影響であろう。
100万円あればこの世の全てを買えるし、困ることは何も無く、ひとつなぎの大秘宝も手に入る。そんな価値観で生きていた。

1ヶ月ほど前、10年振りぐらいに通帳を記帳したら(カス)、色んなものが省略されて
【+20000000エン】
【-20000000エン】
と無機質に書かれていた。
この世の全てを手に入れられると思っていた100万円はこの10年で20回使っていたし、100万円程度ではイカした新車ひとつ買えやしないことを、中年になった今は嫌という程知っている。

金持ちになりたいという気持ちはそこまで強くない。
人並みの幸せが程遠い俺は、人並みの幸せを手に入れるのに躍起になっている最中で、大金なんて二の次である。

それでも尚、金持ちの生活というものに一抹の憧れを抱いているのは否定できなかった。



閑話休題

夏の暑さが消え失せたかと思いきや冬に片足突っ込み始めたこの日、双子とその友人達は東京湾アクアライン直上・海ほたるPAに立っていた。
金持ちの遊びをするためである。


あさりと鯛のラーメン

秋キャンプを計画したものの「友人同士の利用はダメ」とキャンプ場からNGを食らい、途方に暮れていたのがひと月前。

色々思案した結果、
「どうせならグランピングにしねえ?」
「別荘なんかもアリじゃね?」
「チンケな別荘じゃなくて高ぇ別荘、やっちまうか?」

いつものように後先考えず。
フリーターと一般社員と上級社員の混成部隊5人は、未だ見たことの無い『金持ちの景色』を見ることになったのだった。



降水確率・90%

――嗚呼。
最近の天気予報はなんと正確なことか。

まだ100万円が無限の財宝〜Unlimited Money Works〜と勘違いしていたあの頃読みふけっていた週刊そーなんだ!(ディアゴスティーニ♪)では、天気予報の当たる確率はせいぜい40%程度と書かれていたのを覚えている。

しかしなんだこれは?
2週間前からずっと、一度たりとも降水確率が変わらないまま、当然のように曇天で当日を迎えている。
でも俺は諦めない。
ベランダBBQを諦めない。
永遠の迷路に迷おうとも、その未来を手に入れるまで私は何度でも繰り返す。

〜交わした約束忘れないよ 目を閉じ確かめる〜



地元密着型スーパーは心を初恋のようにときめかせてくれる

泊まる別荘にはBBQ食材付きプランや、近くの料亭から女将を召喚する狂ったプランもあったが、素泊まりにした。
ケチったわけではなく、自炊に自信ニキの双子が色々やりたくてそうなった。女将呼びたかった人、もし居たらごめんなさい。

そんなわけで道の駅とスーパーで大量に食材を買い込む。
色々悩んだけど焼肉とカレーにしよう。
貧民の考える精一杯のアウトドアらしさが滲み出る献立だ。



小雨降る中車を走らせる

千葉県館山市に突入し、景色が変わる。
ただの田舎の海沿いなのに、どこを見てもピカピカの建物……別荘と形容するしかない建物が視界に映り込む。

大丈夫?ニコニコレンタカーのロゴがでっかく貼ってあるステップワゴンで走っても笑われない?


まず坂道があった。
Rockstar Gamesの伝説的名作『GTA5』のマイケル・デサンタ宅玄関と全く同じものが目の前にある。

坂道を登ると駐車場があった。
こぢんまりと、それでいて周囲から視界を遮るような形で存在している。

そしてその先には――


大きくて、立派で、自分の人生と縁のない豪邸がそびえ立っていた。

闇バイトが突撃したくてウズウズしていそうな、そんな豪邸。
それを目の前にして目を輝かせる、闇バイトのような風体の5人組。

最新天気予報では、夕方からてっぺんにかけて大雨と暴風が襲うらしい。
そんなことすらどうでも良くなるほど、来てよかったと心の底から思っていた。


つづく

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