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<無為フェス#10>身体企画ユニット ヨハク『円グラフという12時間の価値観の振付』
マルコビッチの休日 BUoY ver. 試演レポート
書いた日:2022/05/12
書いた人:秋山きらら(身体企画ユニット ヨハク)
2022年3月29日、北千住BUoYにて「自分がもっとも有意義だと思う12時間の過ごし方」を交換し、他者にとっての有意義な時間を自身の身体で代行する《マルコビッチの休日》を試演させていただきました。
タイトルはスパイク・ジョーンズ監督作品、『マルコビッチの穴(映画)』より。
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はじめまして
私たち〈身体企画ユニット ヨハク〉は、東京を拠点に2016 年より活動するパフォーマンスユニットです。ダンスの定義の “余白” を攻めることを楽しみ、そのフィールドとして、またアイディエーションのツールとしてダンスを使っています、……と普段は言っています。
所謂“ダンス”を踊ることは上手くできないのですが、「横断歩道は歩行者を振り付けているのでは?」と言ってみたり、けんけんぱを改造してみたり(2019,「超けんけんぱ」)、360度カメラに映えるダンスを作ってみたり(2021,「ショー・マスト・ゴー・ラウンド」)しています。
▶︎これまでの作品は〈うごきずかん〉でご覧いただけます。
基本的に人為が働いて形や仕組みになっているものを身体でおもしろがる、というようなスタンスです。と言うと伝わりやすいでしょうか。
そんな私たちですが、有り難くチャンスとスペースをいただけた〈BUoY地下・無為(ぶい)開放プロジェクト〉にて、「BUoYでのセミクローズドな場と12時間という時間で何ができるのか?」を考えた時、12時間ぶっとおしでなにかをしたい、12時間仕事できるし、12時間寝れるけど12時間パフォーマンスするって結構しんどいよね…、そういえばずっとあっためてた未来日記交換したい…!
みたいなところから、ヨハクにしては普段よりちょっと趣向の異なった実験回になりました。
📝 やったこと
タイトル|マルコビッチの休日
主催|身体企画ユニット ヨハク
日程|2022年3月29日(火)
会場|北千住BUoY 〈BUoY地下・無為(ぶい)開放プロジェクト〉にて
内容|「自分がもっとも有意義だと思う12時間の過ごし方」を時間割にして持ち寄り、お互いに交換。他の誰かにとっての有意義な時間を、自身の体を使って過ごします。その12時間は全くの無意味な時間となるのか、それともその中に何かを見出すことが出来るのか、その見出した何かは誰のものなのか。半日を他人の価値観の中で生活する試みで、我々は何を交換できるのか、検証します。
手順|
・前日までにプランの提出をする
・プレゼント交換のように、自分のプランを他の誰かが実行し、誰かのプランを実行する振り分けをあみだくじで決定
・当日は9:30に集合し、10:00-22:00の12時間をかけてプランで書かれていることを実行する
※ 極力書かれていることのみ最後まで実行するが、難しいと判断した場合は連絡の上途中棄権可能
※ プランの内容によっては(アレルギー食品、喫煙、記憶にない過去を思い出すなど)自分なりに解釈して代替行為をすること
参加者|秋山きらら、加藤航平、倉田義也、小池周子、ナカバヤシアリサ、中屋敷 南、仁科幸、Hiyoko Takai
つまり、自分にとって有意義な12時間の時間割〈プラン〉を考えて、8人の参加者同士でシャッフルし、BUoYを拠点に実践してみた、というところです。「マルコビッチの休日」という作品っぽいタイトルをつけましたが、思えば仮タイトルは「行為のプレゼント交換」でした。ちなみに集まってくれたのは、ダンサー、アーティスト(ペインター、銅版画家)、専門学生(鍼灸)、作曲家という、表現や身体感覚の強そうな遊びごころに溢れた面々!
やってみた直後の感想としては、「12時間他人の有意義なプランを実行したら、判断コストがなくてノーストレスで意外と楽しい!けど、なれないことした反動で翌日めっちゃ疲れてる!」という感じでした。
そうそう、現場ではさまざまなことが起こっていました。
他の人のプランを言わば代行することで、自分の身体と他人のプラン(≒脳/台本)の間をいったりきたりすることとなり、あったかもしれない現実をイマココに立ち上がらせるという、演劇的な力を微弱にお借りすることになったのかなと。そして、他人の作成したプランをただただ実行(≒遂行)するということは労働的な側面があり、「プランでカレー食べることになってるから迷わずカレーを食べてあげよう」という、判断能力を使わない上に、気持ちよい「言い訳」が既にある状態で一種の生きやすさすら感じることがありました。
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これが自分で決めた休日の過ごし方だったらなんとなくその日の終わりに自己評価して「有意義な休日だったか?」と切なくなったりするけど、他人からお手製のプランを“プレゼント交換”のように受け取ることで、(自分もプラン書くの大変だったしと)受け取る側のちょっとした責任や感謝が生まれたり(贈与の関係?)。「今日は12時間無駄なことをする日だから無駄になって良い」とでもいうような、ある種矛盾した、諦めた先の開き直りの充足感や自己“評価”されない妙な充実感があったり。
AIから提案される余暇の過ごし方スケジュールがもしあったとして、「これは目の前の“この人”が書いた有意義なスケジュールだ」という手触り感は絶対的に前者より強いなぁとか。
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今回は、読書ための本や、筆記用具やゲーム機など、プランに付随する道具も交換することでその人になりきれないながらなりきってみたり。追体験/想像/プラン主に身体を乗っ取られながら、もしくはプラン主の行為予定を乗っ取りながら、でも中身は私のまま(主体)、遂行してる違和感が12時間という長い遂行時間を通して顕わになってきたり。結果として、他者の価値観や、行為選択の癖や、思考回路をちょっと味わってみることになってるなぁなどという振り返りの感想文が寄せられました。
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BUoYという内省的になりやすく、場の空気感が強い会場に集い、同時にプラン遂行をしている者同士の多少の「見る/見られる」という視線があったことで、1人の“パフォーマンス”が同時多発的に各々真剣に上演されていて(それは決して共演ではないがたまに交差/干渉していた)、終始適度な緊張感のある空間(ちょっと緊張した、という感想もあり)となりました。
サウンドスケープとしても面白く、時おり、電話する声や、笑い出したり、独り言や鼻歌が呼応し、足音や寝息のような音が折り重なる風景がありました。タイムラインが12時間の楽譜として、譜面におこしたらおもしろそう。(それにしても「有意義」なプランへの昼寝組み込み率の高さよ!笑)
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当てがきではなく、忖度なしで自分にとっての「有意義」さを考えたプランを各自考えてもらったため、ぶっとおしでゲームするプランやひたすらリサーチ&考えるプランが出てきたり、自由記述としたプランの書き方も時間の尺度、解像度、タイプが違ったりといろんな発見がありました。そして、それらのプランをあみだくじでシャッフルしましたが、途中離脱する人もなく、BUoYを拠点に出掛けたり帰ってきたりと(有意義な)生活が実行され交差することなく折り重なり、無事終えることができました。
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思い出深いのは、平面作品をよく描いているアーティストの方が提出されたプランには申し訳程度にドローイングの時間があるだけだったので、「半日ずっと絵を描きまくる!みたいなプランじゃなくて大丈夫ですか?やってくれる人の負荷とか考えて手加減していたとしたら再考してください!」と返信した際、「それ(半日絵を描く日)は…、私にとっては“有意義”な日ではなく仕事の日になってしまうので、本当にこれで大丈夫です!」と返ってきたことです。
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そして、これらのプランの指示に従ってアウトプットされた作品はいったい誰のものなんでしょう。
今回このメンバーだったからたまたまなのかもしれませんが、プランを遂行する中で生まれてきた表現物が多く、それらがまるで誰の作品なんだろうという顔をして後日LINEにシェアされました。このおもしろさはきっと、それをしたいという欲求を持っていた主体(=プラン主)から切り離されて他者によって遂行され、究極に私的で無駄な行為が生成されたが故のおもしろさなんだろうな。「私はなにをやっているんだ?笑(この会がなかったら絶対に人生でやらなかった行為だ)」「あぁ(プランに書いた)その行為は私がやりたかったことなのに」みたいな感想もちらほらと。
惜しげもなく公開許可をいただいたのでそのうちのいくつかをご紹介すると、
▶︎「好きな言葉の組み合わせやテーマを沢山見つけてそこから1つ歌詞を書いてみる」を遂行してできた歌詞〈クラゲは97%が水分〉
▶︎「ブログを執筆する」を遂行してできた記事〈2022.3.29のブログ〉
▶︎「音楽と振付をつくり、ざっくりと完成させる。それを動画に撮る。」を遂行してできた動画〈よい(仮)〉
▶︎ 「道と未練についてもっと考える。自分に撮って世の中にとって何かしらの結論を導く」を遂行してできた〈道と未練についての考察〉
いやぁ、いいですね。
と言うことでまだまだこの「マルコビッチの休日」を試演するという行為が、なにを為しているのかまとまっていません。とっちらかっております。
ですが一旦のまとめとして、「半日を他人の価値観の中で生活する試みで、我々は何を交換できるのか、検証します。」と宣言したこともあり、「我々は何を交換できたのか」と言う問いに答えたいのですが、一旦の現時点での私、秋山きらら(身体企画ユニット ヨハク)の回答としては、
自分がもっとも有意義だと思う12時間のプランを交換し実行することで、時間の使い方(≒ 今を生きる)に現れる思考や習慣や判断基準といった人生という長い時間の中で培われた価値観や、身体的に獲得している時間感覚とか、有”意義”を感じるセンサーを、他者から借りてきた感は大いに実感した。我々が交換したこの実感をともなった“何か”は、12時間かけてもやっと体験できたくらいにすぎなくて、自分のものになったわけではなく、今となっては丁寧にご返却した感じもある。
としたいと思います。
「我々が交換したこの実感をともなった“何か”」という“何か”の部分に代入できるのは、アイデンティティ/時間感覚/価値観/思考回路/習慣/判断基準/意義の捉え方/今(=現在)を生きるのに切り離せない過去・現在・未来に対する態度、などなどいくらでも、実践した人の数、いや、実践した人の試演に対する態度の数だけ見いだせるのでは。
「いや、これも、円グラフという12時間の価値観の振付であり、その指示書を読み解き自分なりに遂行する時それぞれのそこにしかないダンス(=行為)が生まれているのでは!」
なんて言ってみたり…………。取り留めのない思考をめぐらせています。たのしい。
これはたのしい。またやりたい。もっと「マルコビッチの休日」で遊びたい…。
……。
と言っていたら、なんとできることになりました! 5月16日より秋田市文化創造館にてこの企画の第二弾をやることに!第二形態!👏(拍手)
📝 タイトル|マルコビッチの休日
主催|身体企画ユニット ヨハク
日程|実行日:2022年5月18日(水) 9:00~21:00〈12H〉
リサーチなど: 5月16日(月)~19日(木)
会場|秋田市文化創造館 コミュニティスペース+周辺
内容|「自分がもっとも有意義だと思う〈秋田市文化創造館〉に立ち寄る(った)日の12時間の過ごし方」を秋田市文化創造館で出会う方々にお願いし、時間割を作成してもらう。他の誰かにとっての有意義な時間を、実践者 秋山が過ごします。その12時間は全くの無意味な時間となるのか、それともその中に何かを見出すことが出来るのか、その見出した何かは誰のものなのか。半日を他人の価値観の中で生活する試みで、私は何を受けわたされるのか、検証します。
ミニイベント|夢のプランをみんなでつくろう!ミニイベント
2022年5月16日(月)12:00-15:00 / 17:00-20:00
プラン募集締切|2022年5月16日(月)
今回は、秋田市文化創造館に出入りするみなさんにお願いしてプランを作成いただいて、いただいたプランの中から1プランを無作為に選び、秋山(身体企画ユニット ヨハク)が実践するという仕立てになっております。
さてどんな「有意義だ」「夢だ」「最高だ」「良かったな」と思うプランが集まるのでしょうか!
基本、現地でプラン作成をお願いしようかなと思っておりますが、もし、秋田市文化創造館に馴染みのある方などいらしたらこちら見ていただけたら嬉しいです!
マルコビッチの休日_お願いチラシ.pdf
マルコビッチの休日_プラン記入シート.pdf
今後の「マルコビッチの休日」展開にも乞うご期待! どうぞよろしくお願いいたします。
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身体企画ユニット ヨハク
“ダンスには、まだまだ余白がある”
論理的思考を得意とする加藤航平と、身体性を基軸とする秋山きららの2人による、ダンスを表現手法としてつくり方から開発するユニット。2016年3月、結成。ダンスの定義の “余白” を攻めることを楽しみ、そのフィールドとして、またアイディエーションのツールとしてダンスを使っているユニットです。
http://ugokizukan.com/
https://twitter.com/kilarla_yohaku
https://www.instagram.com/kilarla_yohaku/
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※ BUoYスタッフより※
「無為フェス」詳細については以下の記事をご参照下さい。