見出し画像

演劇的珈琲の在り方(ブレるカフェのこと)

こんにちは。バリスタのしば田ゆきと申します。
2017年のBUoYの立ち上げに際してカフェ立ち上げのお手伝いをしました。
何者かと聞かれると明確に答えにくいのですが、珈琲と場(店)と芸術が好きで、その近くで活動をしています。

立ち上げ時に設定したカフェコンセプト「ブレるカフェ」は、オープンからずっと大切に使っていただいて、嬉しい限りです。
BUoYに関わり始めてから時が経ち、再考したこのコンセプトのことを書こうと思います。

>舞台芸術と私の珈琲

私は現代美術が好きです。
それまで美術館やギャラリーには行っていたものの、舞台芸術を数多く鑑賞してはきませんでした。
BUoYで作品を鑑賞する機会や演出家さんに会うきっかけをもらってからおもしろく感じているのは、舞台芸術の「作品の在り方」です。

特に興味深く感じるのは、舞台は同じ公演でも1度目と2度目が違うものになるということ。
そしてその在り方は美術作品とは大きく異なります。

この違いは、どのタイミングで作品が「作品」となるかという点なのかなと思います。
あるいはタイミングではなくバランスの違いかもしれません。

美術作品の多くは作品として完成させられ、ときに額などに収められ、それが壁にかけられるなどをして鑑賞者に認められる場所にいきます。
舞台芸術(特に演劇かな)は、それが一度完成させられた時点では、未だ「完成」から遠いものだと感じました。
それがどの日にどの観客の前で、あるいはどの状態で発表されるか。それによる完成形の差異が美術作品のそれとは大きく異なる。

パッケージングの感じが違う、とでも言いましょうか…。
鑑賞者の私たちは「ホットケーキ」ではなく、「ホットケーキミックス」を渡されるような感じ。

それを見たときに、「あ、これは私のやっている珈琲と似ているな」と思ったものです。

珈琲も、そして芸術作品も、それがそれと完成した時点ではまだ完成させられていません。
それは鑑賞者、お客さんに認められることで初めて存在することになります(ただ、哲学の話になると不勉強でよくわかりませんけども)。
そうなった時に、私の出している珈琲というのは舞台芸術と似た具合でそこに存在しているし、そのように存在してほしい、と思いました。

>BUoY Caféの在り方

画像2

BUoY Caféの「ブレるカフェ」というコンセプト。

私が10代の頃チェーン店でアルバイトをしていた時、どこへ行っても必ず言われることは「同じ商品同じサービスをすべてのお客様に提供すること」でした。それ以上でもそれ以下でもない商品とサービスを提供することが求められます。私はそれを面白くも美しくもないと思っていました。

つまりその「作品(コーヒーの、あるいはハンバーガーの、)」の在り方には明確な線引きが発生しているように感じてしまうのです。
そこにはお客様が関わる余地が残されておらず、お客様は出されたものをそれとして評価するという参加方法しかない。それは作品の良し悪しにはまるで関わらない。なぜなら提供された時点でそれは完成されたことになっているからです。しかもそれは態度として

でも本当は、飲食店における「美味しい」はテーブルの上やコップの中のみの話ではないはずです。

BUoY Caféは舞台芸術のそばにあるので、それはもっと舞台芸術的に存在していていいのだと思います。

BUoY Caféの本日のコーヒーは、その日のスタッフがその日に決めます。
それは彼ら彼女らの体調を反映していたり、気分を反映していたり、性格を、好みを反映していたり、天気を反映していたり、そこにはその時にならないと誰にもわからない不確定な要素がたくさんあります。
だからこそ「本当に美味しい」のかどうかは誰にもわからないし、なんならその「美味しい」には多少なりお客さんにも参加した責任が発生しているということです。

私はプロのコーヒー屋として、美味しい可能性が高いように設計しています。ただそれは決して「美味しい」を約束するものではなく、私にできるのは最高の状態を用意することだけ。

練習して作り上げたものが、そこに劇場がありお客様がいて初めて「いい公演」としてできあがる、そんなようなことと似ているんだと思います。

コンセプトの説明は、オープンのときからスタッフのみなさんに珈琲のレクチャーとともにお話させてもらっていますが、さっとした説明ですっと真意を理解してくださるなといつも思います。これを共有できるみなさんがいるからこそ、成り立っているこのわけのわからないコンセプト、奇跡的なカフェだなぁと思っています。

BUoY Caféは広々として、2mあけて隣に座ることもできます。
ぜひその日の珈琲を感じに足を運んでみてください。
きっと毎回違う作品を味わうことができます。

BUoY Caféコンセプト全文はこちら ↓

https://buoy.or.jp/cafe/

最後に、私が2020年に立ち上げたコーヒーメディアと珈琲豆販売のウェブサイトをご紹介します。

画像1

オトナリ珈琲
オトナリ珈琲では、「あなたに合った珈琲豆」をお選びします。

たくさんの人が「美味しい」に対して「正解」を探して話したり、それを以て非難しあうことを窮屈に感じます。「正解」はどこにもないという前提のなかで、オトナリ珈琲では、あなたの好みや生活に合った「良い珈琲豆」を提案してお届けします。

また、ウェブサイトでは珈琲の周りの人々のインタビューや、食にまつわるコラムなども掲載しています。ぜひ覗いてみてください。

しば田ゆき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?