『KOTOKA』、良い。
奈良の革靴『KOTOKA(コトカ)』を履きおろしました。
いや~~~~とても、良い。大満足です。感じたままに書いてみます。
素材や製法に関する考察は全て私個人の想像と妄想によるものですので、ご了承くださいませ。
KOTOKAとは
奈良の靴メーカー7社が共同開発するブランド。日本の古都・奈良にふさわしい、日本ならではの美意識や価値観が込められています。
公式サイト
https://nara-shoes.jp/kotoka/
なかでも
・日本料理のように素材を活かす
・一枚の革の美しさをそのまま靴にする
・簡素さの中の美その日本の心を大切に
このコンセプト、痺れました。
そして
・もし日本が、西洋文化に依らず独自で靴を作っていたら。
というテーマを見事に革靴として成立させています。
デザイン
名前の通り、一枚革で構成されています。
シンプルでありながらもオーラのある不思議な佇まいに惹かれたのが最初の印象でした。
2年ほど前の当時、マイサイズサンプルが無かったのですが、先日奈良で開催された靴EXPOにて発見-試着-即決でした。
ストラップの尾錠はアンティークゴールドのローラータイプ(ストラップ取り付け時に受け具がクルクル回って装着しやすい)
木型の特徴は、
とのこと。見た目はゆったりしていますが、ボテッとはせずに上品さを感じます。
素材
アッパー
良質な栃木レザー。厚みは実測で約2.7~3.0mm弱。
非常・・・に革好きにはたまらない質感に大満足感です!
「厚い革で足を包んでおきました」と言われてるような安心感。
余分な装飾を極限まで削ったおかげで、素材の良さがダイレクトに伝わってくる。
味のある革でなければ、ここまで勝負できないと思います。
自分で底付けするならどうなるだろう・・と想像を膨らませてみます。
この厚みで吊り込みは大変だろうなと思います。
トーラスターを使うとそうでもないのでしょうか?(私は手吊りしか経験がないので分かりません)
一般的な革靴のように、ライニングとアッパーが別れている場合は片方ずつ吊り込めるのでまとめやすいですが、一枚革だとそうはいきません。
※革が厚いと吊り込みが大変な理由は、つま先などカーブがキツい部分は、ヒダをきれいにまとめてシワなく仕上げる難易度が高いためです。
さらに先芯がない構造のため、吊り込み時につま先パーツを必要以上に引っ張ると、木型をぬいたときに型崩れしてしまう原因になるのではと想像しました。つま先のシワを取ろうと躍起になって引っ張りすぎてしまいそうなためです。
奈良の靴製造の文化と技術のなせる技です。
押し縁も完璧な配置ですね。
う~ん、押し縁どういう取り付けと構造になってるんだろう・・・。
吊り込みのあとにテーピング上押し縁をグルッと貼っているのか、一体型として準備しているのか。きになる・・・・きになる・・・。
※押し縁(おしぶち)とは
ウェルトにあたる部分です。こちらはマッケイ製法のため、ウェルト(ウェルティング製法に使う革パーツ)ではありません。ただし、名称区別せずにウェルトのことを押し縁と呼ぶこともあります。
ストラップ
ストラップは、尾錠付近は実測で2.2mm厚前後。
アッパーとストラップの革を同厚に漉いた場合、ストラップは装着時にひっぱるのでその分薄くなります。
もともと3.0mm近い厚みのヌメ革なので、この程度薄くなることのデメリットはありません(というか当然設計済み)。
アッパーと比較すると、ストラップは伸びにくい部位(床面を見る限り、おそらくベンズ)を、伸びにくい繊維方向を考慮して裁断されているのだと思います。
いやぁ、、、ここ、好きなんですよね。
この靴で一番好きな部位はストラップかもしれません。
通常の革靴のモンクストラップやダブルモンクですと、上述したような
「ひっぱって伸びる」という事象は顕著には起きません。
アッパーとライニングの間にのびどめテープをサンドイッチし、縫い合わせます。糸も素材としては非常に伸びにくい素材ですので、結果としてストラップは伸びに強くなります。
「ストラップが伸びる」
言葉だけ聞くと、デメリットだと感じるかもしれません。
しかしこの靴を隅々まで観察して履いてみて、デザインと素材と経年変化とを計算し、組み合わせ、全てが最大限活かせる一点を突いてきたと感じます。
どういうことかと言うと
たとえばこのストラップが1.5mm厚栃木レザーと1.2mm豚革ライニングにのびどめテープを仕込むとどうでしょう。
当然、縫い合わせのためのステッチラインが現れます。
ストラップだけにステッチラインというのはバランスが崩れます。
では、アッパーの履き口に装飾としてのステッチライン(機能性をもたない)を施すか?いや、それをしてしまうと
・一枚の革の美しさをそのまま靴にする
このコンセプトに反してしまうからです。
こうして無駄の一切ない、必要な機能だけを丁寧に配置した一足として成立しています。
なお、かかとに見えるステッチは、ヒールカウンター固定のため。
ストラップ下部の半月上のステッチやベロ横は、ベロ固定のため。
いずれも必要な箇所だけの縫製です
ストラップ部位の魅力はまだ続きます。
写真のとおり、尾錠を外すと左右にフルオープンになります。
じつはこれもこの靴の推しポイントです。
よくぞ・・・よくぞフルオープンの決断をしてくださった!!!!
フルオープンではなく、ストラップとアッパーのサイドを縫製で固定したほうが、アッパーとして取り扱いしやすいはずなんです。とくに底付け工程のとき。
しかし、全体デザインバランスを考えると、やはり!ここには!
ステッチをいれるわけには!いかなかったのだと!!!!
メーカーさんの情熱と決意を感じます。
ストラップをフルオープンにするとまさにホールカットの靴が眼前に現れます。
違う靴のようでこれまた美しい・・。
さて、デザインコンセプトを守るプライドによりフルオープンストラップが採用された結果、副次的効果がいくつかあります。
①お手入れしやすい
障害物が全くないまさにホールカット状態になるので、靴磨きも効率的ではないでしょうか。
②修理、カスタマイズしやすい
自分で修理やカスタマイズする層にとっても相性抜群です。
たとえば長年つかってストラップ部位を交換したくなったとき、比較的修理がし易いです。
尾錠交換はごく一般的なレザークラフト手順で可能ですし、
尾錠を通す革(剣先パーツ)も、途中で切断して同色の革パーツを継げば交換が可能です※その場合はサイド部につなぎ目の縫製が出ます。
いやぁ~感服!
仕上げ
アッパーのコバ
靴でコバ、というと2種類ありますね。
ソールのコバと
アッパーのコバです。
通常、革靴の世界ではアッパーについては「履き口」「トップライン」などと呼ぶのが一般的だと思います。
しかしこのKOTOKAについては、アッパーのそれもまさしく「コバ」
そして、余分な装飾や仕上げを施さない潔い生成り仕上げ!!
もう、たまりませんね。
これがまたこの靴の魅力を最大限に引き出しています。
コバ処理をどうするかは、靴の全体印象にかなり大きな影響を与えます。
一枚革モンクのアッパーコバの仕上げを考える場合、いくつも可能性は挙げられます。
(a)ナチュラル(生カット)
(b)トコ仕上げ剤+磨き
(c)ロウの熱ゴテ(ネン)仕上げ
(d)顔料
勝手な想像ですが、企画段階で相当議論があったのではないでしょうか。
まず、(d)顔料は3.0mmほどのヌメ革に採用する場合、どうしても「乗ってる感」がでてしまうと思います。そうなると
コンセプトである
・日本料理のように素材を活かす
これが失われてしまう可能性があるかもしれません(※顔料仕上げ自体を否定する意図は全くありません)
(c)ロウの熱ゴテ(ネン)仕上げ
こちらはいかがでしょうか。ナチュラルのヌメ革に熱ゴテを施すと、熱反応とロウの浸透によりダークブラウン系の色に近くなります。
履き口だけこの仕上げにするとバランスが悪いかもしれません。ではストラップに同様の仕上げを施すべきかというと・・・
ナチュラルで全体がしっとりとまとまっている中、ストラップを境界線として前部と後部で分断された印象になるかもしれません。
(a)ナチュラル(生カット)
(b)トコ仕上げ剤+磨き
(a)が採用されることで、全体的な柔らかい印象を醸し出しています。
※「生カット」って言葉は一般的ではないですね。
素材面でいくと、品質の低い革でこれをやると、すぐにボソボソになってしまいます。ある意味素材への信頼感と自身からくるナチュある仕上げなのではないでしょうか。
お手入れ面では、汚れた場合は紙やすり(#320がオススメ)でサッサーと磨けばきれいになります。
(b)トコ仕上げ剤+磨き
については、レザークラフト感覚で自分でできちゃいますので、靴のお手入れ好きな方はトコノールなどでチャレンジしてみてはいかがでしょうか(銀面につかないよう注意!)
履き心地
ご覧の通り、先芯がないです。 これにより柔らかい履き心地を提供します。
温かみのある特徴的なフォルムを生み出しているのも、これが影響しているのかもしれません。
非常に足あたりがよく、快適です。
フィッティングについては人によるので、是非機会があれば試着してみてほしいです。
私は、結構な細足(+甲高)なのですが、1mmの革を切ってベロ裏に両面テープで貼って快適になりました!
ということで、大変面白い革靴 KOTOKA。大事に育てていきます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?