文徒インフォメーション Vol.42
Index------------------------------------------------------
1)【Book】和辻哲郎賞は三浦篤、納富信留に決定
2)【Publisher】朝日新聞出版 3月1日付人事
3)【Advertising】クリエイティブディレクター小池一子の回顧展が神田で開催
4)【Digital】ロシアがFacebook、Twitterを規制、Googleとメタはロシアを逆に規制
5)【Magazine】「SAKISIRU」が講談社フライデーの暴走をスクープ
6)【Marketing】「儲からないからやめよう」がメディアの命脈を絶つ?
7)【Comic】日本漫画のウェブトゥーンシフトがついに始まった
8)【TV, Radio, Movie, Music & More】日テレはVチューバー事業の新会社、フジはリストラ
9)【War】ロシアのウクライナ侵略はメディアも戦場だ
10)【Journalism】ジャーナリズムはリアルな戦争にどうコミットできるのか
11)【Bookstore】三省堂書店神保町本店は5月8日閉店、6月1日より仮店舗開店
----------------------------------------2022.2.28-3.4 Shuppanjin
1)【Book】和辻哲郎賞は三浦篤、納富信留に決定
◎2月24日付毎日新聞は田中和生による文芸時評を掲載している。田中は吉田修一の「ミス・サンシャイン」(文藝春秋)を戦後文学的な「重い主題」を引き継いでいると次のように評価している。
《長崎出身の作者が戦後生まれの当事者ではないという立場から、それでも原爆がもたらしたこういう美しい生き方があり、そこでその生き方をささえたかけがえのない生があったことを表現する、戦後文学的な主題を受け継ぐ素晴らしい作品になっている。》
https://mainichi.jp/articles/20220224/dde/014/070/008000c
「けんご」も評価している。
《まだ途中ですが、すっごい好き…!
大学院生が80代の女性に恋する話。》
https://twitter.com/kengo_book/status/1486684372711337989
◎文壇バー「風紋」経営者・林聖子が老衰のため死去。93歳。
https://mainichi.jp/articles/20220227/ddm/041/060/054000c
昨年秋に「聖子」を刊行した森まゆみのツイートを最初に紹介しておこう。
《聖子さんの父林倭衛画伯、信州上田出身のアナキスト、大杉をパリに迎え、遊び、送り、4ヶ月たたずに大杉は関東大震災で憲兵隊によって殺された。聖子さんも親の血を継ぐリベルタンだった。》
《最後まで大好きな方でした。新宿に60年近く、「本当のことをいえる場所」アジールを作ってきた。》
https://twitter.com/yanesenkumatyan/status/1497506655449550853
https://twitter.com/yanesenkumatyan/status/1497504849541615642
月刊「東京人」のツイート。
《創刊時よりお世話になっている、新宿の文壇バー「風紋」の林聖子さんが亡くなられました。太宰治の『メリイクリスマス』のモデルでもある聖子さんには、太宰のこと、お父様の画家で、大杉栄らアナキストと交流があった林倭衛のことなど様々なお話を伺わせていただきました。ご冥福をお祈りいたします。》
https://twitter.com/tokyo_jin_toshi/status/1497168751770308608
元声優の小河知夏もツイートしている。
《昨年末に太宰治さんの「メリイクリスマス」を語りました。そのメリイクリスマスのシズエ子ちゃんのモデルとなった林聖子さんがお亡くなりになりました。ご冥福を心よりお祈りしております。》
https://twitter.com/ogawachinatsu/status/1497702320984838149
◎2月27日付琉球新報は書評面で谷口真由美の「おっさんの掟」(小学館新書)を取り上げている。評者は琉球新報広告事業局次長・島洋子だ。
《変化を拒み責任を取らない「おっさんたち」が日本の「失われた30年」をつくったのではないか。自覚なく若者や女性たちの足を引っ張り、社会を劣化させる存在になってはいないだろうか。「おっさん」の定義を自身や自身の組織に当てはめて読んでみることをお薦めする。》
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1476873.html
◎毎日新聞は2月27日付で「川上未映子さんが新刊で描くコロナ禍の不穏な日常」(関雄輔)を掲載している。
《生殖倫理を問う長編小説「夏物語」が海外でもベストセラーになるなど、国内外で注目を集める川上未映子さん。デビュー以来、一作ごとに作風と主題を変えてきた作家が新作短編集「春のこわいもの」(新潮社、28日発売)で見つめたのは、コロナ禍の不穏な日常だった。》
《「コロナ禍で、それまで当たり前だった日常の素晴らしさに気付いたという人は少なくないと思います。花がより美しく見えるようになった、という人も。でも、花は前から美しかったし、世界の醜い部分は、前から醜かった。そのことを忘れてはいけないと思うんです」
「春って、なんだか怖くないですか」。タイトルについて聞くと、そんな答えが返ってきた。》
https://mainichi.jp/articles/20220225/k00/00m/040/319000c
川上未映子がこんなツイートを2月28日に投稿している。
《「春のこわいもの」本日刊行になりました。子どもの頃から、過去のある時点を振り返り、世界がつねに「この時は、まだこんなことになるなんて知る由もなかった」で満ちていることが恐ろしかったです。誰しもが災厄の直前にいるという逃れられない「今」についての作品集です。よろしくお願いします》
https://twitter.com/mieko_kawakami/status/1498102663145467906
早川書房は、3月より、川上未映子による新訳で絵本「 ピーターラビット」シリーズ(全23巻)の刊行を開始するが、これも話題になりそうだ。
https://www.hayakawa-online.co.jp/new/2022-02-21-174214.html
丸善ジュンク堂は「春のこわいもの」の刊行を記念して歌人の穂村弘を招いてオンライントークイベント「あなたの『春のこわいもの』」を3月14日に開催する。
https://online.maruzenjunkudo.co.jp/collections/j70019-220314
◎逢坂冬馬は「同志少女よ、敵を撃て」の最新の重版の印税相当分は全額UNHCRに寄付するとツイートしている。
《『同志少女よ、敵を撃て』にまた重版がかかりました。ありがとうございます。ただ現在の国際情勢下で自分の本が売れることに、どうしてもやりきれない気持ちがあるので、最新の重版の印税相当分は全額UNHCRに寄付します(カードの上限に行っちゃったので小休止中)。》
《寄付先はUNHCRのウクライナ緊急支援ではなく、一般的な窓口にしました。ウクライナに世界の注目が集まり中、シリア、アフガニスタン、パレスチナ、ミャンマー、ベネズエラといった世界中の国にも同じように困難な人がいることを忘れないためです。》
《使用額の上限増やしてって頼んだら即通ったので無事全額寄付できました。困難な中にある人の状況に少しでも貢献できますように。》
https://twitter.com/gena_Krokodil/status/1498600627068231680
https://twitter.com/gena_Krokodil/status/1498601238048296961
https://twitter.com/gena_Krokodil/status/1498602764024172547
◎「まいじつ」は2月27日付で「ロシアの侵攻で再評価? 矢作俊彦『あ・じゃ・ぱん』に『今こそ読まれるべき』」を発表し、戦後の日本が西側と東側に分断されるという設定の矢作俊彦の小説「あ・じゃ・ぱん」と、矢作が原作を担った大友克洋の漫画「気分はもう戦争」について《この2作品を知る人は、ウクライナとロシアの関係が激化する今こそ手に取るべき本だと考えている模様》だと報じている。
https://myjitsu.jp/archives/336555
◎毎日新聞は2月28日付で「声をつないで『貧困は女性のせい?』桐野夏生さんが語るジェンダー格差への怒り」(和田浩明)を掲載し、今月4日に「燕は戻ってこない」(集英社)を刊行する桐野夏生をインタビューしている。
《「無我夢中、五里霧中で書きました。これでいいのかもわからないんですよ」と言う桐野さん。今作の月刊誌連載は2019年に始まったが、女性を取り巻く環境は悪化の一途をたどっている。日本の少子化が進む中、男性政治家などから子供を産まない女性を責めるような発言も後を絶たない。一方で生殖医療の長足の進歩の陰で、卵子提供や代理出産での貧困女性の搾取が起きている。こうした現状について作品を通じて問題提起をしたかったのだという。》
https://mainichi.jp/articles/20220225/k00/00m/040/168000c
◎毎日新聞は2月28日付で「女性差別の土壌、今なお 『ソ連兵へ差し出された娘たち』著者・平井美帆さん」(藤原章生)を掲載している。開高健ノンフィクション賞を受賞した平井美帆の「ソ連兵へ差し出された娘たち」(集英社)を取り上げている。次のような評価には全面的に賛成できる。
《この本の新しさは、大陸での性被害を単に、史実、混乱期のこととみなさず、今ある女性差別と途切れることなくつながっていると示した点だ。ひどいな、何てことだ、では済まさず、読後も「あなたならどうする」「お前の娘に起きたらどうする」と問うているところだ。》
平井が言うようにノンフィクション業界も上に行くほど男ばかりだ。「男だけの世界」という幻想に酔っている輩も少なくあるまい。
《出版前、マスコミ関係者に読んでもらうと、女性はおおむね好意的な反応だったが、一部男性は「男性優位社会への敵対心を持っている」などと決めつけ、中には怒る人もいたという。
「私にとっては初めての経験じゃなく、これまでも男性編集者から『男性読者を失う』と言われたことがあります。ノンフィクション業界も上にいくほど男性ばかりなので、ある意味偏ってきた部分はあるのではないですか。女性の書き手はいるけど、そのテーマや内容をえり好みする。無意識に自分の価値観を押しつけてしまう。でも私は自由にいろんなものを世に出した方がいいと思っているので、今回は妥協せずに書きました」》
https://mainichi.jp/articles/20220228/dde/012/040/020000c
◎朝日新聞デジタルは3月2日付で「源氏訳へて聞こえてきた声 角田光代さんに聞く新刊『タラント』」(興野優平)を掲載している。
《池澤夏樹さん個人編集「日本文学全集」(河出書房新社)収録の源氏物語現代語訳を手がけた後、久々の小説として読売新聞に連載した今作は、当初難航したという。「勘が戻らないまま、でもとにかく書き始めると、どんどん些末(さまつ)なことを書き続けていった」
ところが書き進めるうちに、「登場人物の声が聞こえるようになってきた」という。「私は本来、非常にストーリーを重視しているんですけど、もしかしたらストーリーはめちゃくちゃでもよくて、登場人物がいきいきと立っているほうがよい小説なんじゃないかと思えてきた」》
https://digital.asahi.com/articles/ASQ315J3TQ2SUCVL00R.html
「本の雑誌」が3月2日付でツイートしている。
《神保町・東京堂書店の週間ベストの発表です!総合の1位は、角田光代『タラント』(中央公論新社)、文庫の1位は 長野まゆみ編『長野まゆみの偏愛耽美作品集』(中公文庫)です。中公さんの2階級制覇!》
https://twitter.com/Hon_no_Zasshi/status/1498825978180947969
◎和辻哲郎賞が決まった。一般部門は東京大学大学院総合文化研究科教授・三浦篤「移り棲む美術 ジャポニスム、コラン、日本近代洋画」 (名古屋大学出版会)、学術部門は東京大学大学院人文社会系研究科教授・納富信留の「ギリシア哲学史」(筑摩書房)。
https://www.city.himeji.lg.jp/shisei/0000019303.html
三浦篤の「まなざしのレッスン 1西洋伝統絵画」「まなざしのレッスン 2西洋近現代絵画」(東京大学出版会)はオススメだ。
http://www.utp.or.jp/book/b303162.html
http://www.utp.or.jp/book/b306988.html
納富信留の「ギリシア哲学史」、総752頁に及ぶ列伝スタイルの通史は圧巻だ。
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マスコミ・広告業界の契約法人に配信されているクローズドなデイリーメールマガジン「文徒」をオープン化する試み。配信されるメールのうち、出版・…
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