スピード感って大事

つくづく「スピード感」って大事だと思う。そう実感したのが昨年のことだ。私は日頃、ミスがあると最悪人が死ぬ仕事をしている。そのため過去の上司に「確実に安全だと自分で言い切れる仕事をしろ。効率はそれからだ」と言われたことを愚直に守ってきた。これはどんな仕事でもそうに違いない。福知山線の脱線事故だって安全より効率を優先した結果起きた悲劇だ。

それが昨年異動があり、「この仕事はとりわけ絶対にミスしてはならない、安全を担保できるよういつも以上に慎重にならないといけない」という仕事が回ってきた。私は緊張感を持って、テキパキ仕事をすることも頭の片隅に入れながら正確な仕事をしようと必死になっていた。ところが新天地の上司が数分おきにやたらと急かしてくる。「もうちょっと早く出来ないんですか?」「ずっと待ってるんですけど」「いい加減にしてもらえませんか?」確かに効率だって大事だ。私が仕事をこなす速度は遅いのかもしれない。しかし、真っ先に安全性を担保しないといけない仕事を10年近くやってきてここまで執拗に急かしてくる上司は初めてだった。だって、繰り返しになるが間違いがあると最悪人が死ぬのだ。絶対に事故は起こしたくない。それに仮に私が本当に仕事が遅いとして急かすメリットってなんだろう。もし私が長距離走の選手だったら伴奏者なり監督の「ペース上げて!」が有益かもしれないが、安全を担保しないといけない仕事をしている者への「もっと早く」はプレッシャー以外の何者でもなく、結果ミスを起こすリスクを上げる。因みに仕事のペースを上げたところで会社の売上や給料は一切変わらない。「納期があってクライアントさんに迷惑をかける」というタイプの仕事でもない。完全に上司の気分だけの問題だ。

この仕事が終わってから上司に長々説教された。あなたは長年仕事をしてきてなんでこのペースでしか仕事を出来ないんですか。安全性も大事ですけど効率だって大事です。そして上司は最後に言った。

「もうちょっとスピード感を持って仕事をしてください」

スピード感。この単語はものすごく私の胸に刺さった。そうだ。私はやるべきことややりたいこと、それはそれはあらゆることをダラダラやってきてしまったけど、スピード感をもってやらないといけなかったんだ。私は甚く反省した。私にはスピード感が足りなかったんだ。上司の言葉に感化された私はスピード感を持ってその日のうちに転職を決意した。

それからというもの、挑戦したいと思ったことには即座に挑戦したり、食べたいと思ったものを食べたり、行きたいと思った場所に行ったり、会いたいと思った人に会ったりなどスピード感をもってやっている。人間、いつ死ぬかわからない。このご時世では人に会ったり旅行したりすることにかなり制限がかかってしまっているが、その中で「丸鶏を焼いてみたい」とか「変わった紅茶を飲んでみたい」みたいなほんの些細なことでも早急に実現出来るように努めている。この文章を書いている間にも「そういえばFXで生計を立てている大学時代の先輩、久しぶりに会いたいな」ということを思い出したのでzoomかなんかで喋れるように連絡してみようかな。人生、スピード感が大事だ。

因みにこの上司に退職を切り出したところ、「えっ、何でですか?!合わなかったですか?!」ととてもびっくりされた。むしろなんで合っとると思ったんだ。

 

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