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スーパー通いで色々ありまして

 また同じことをしてしまった。夕方5時を回ったキッチンで、私は一人途方に暮れる。

 大葉を買い忘れてしまったのだ。

 いや、正確には野菜売り場に陳列された、5枚入りの手のひらより一回り小さな薄い袋を買い物かごには入れた。レシートを確認するときちんとレジは通っている。サッカー台でエコバッグに商品を移し替える際に、かごに残したまま帰ってしまったんだろう。

 今夜は梅と大葉入りのだし巻き卵を食卓に出すつもりだった。今からスーパーへ戻って買いに行こうか。バッグに詰め忘れたと言えば、親切な店員さん達は探したり、新しいものを渡してくれるだろうから迷惑を掛ける。それとも諦めて、別なだし巻きにしようか。

 もしかしてと冷蔵庫の野菜コーナーの引き出しを開けると、ラップに包まれた5センチほどの長ネギが残っていた。まるでこんな時の為に待機してくれていたような。ありがとう、ネギって本当に優秀なマルチプレイヤー。

 だけど本当は大葉の気分だった。だし巻き用に余った分は、翌日冷ややっこにオンしたかった。初夏だから、優しい苦みあるあの味を欲していたのだ。

 今頃私が買い損ねた大葉はどこにいったのか。積み上げられたかごの中に未だ残されているのか、それとも誰かに救って貰って地上に出られたのだろうか。規模の大きな店だから、一つのカゴがどれくらいの時間で循環するのかがわからない。いずれにしても買い物から随分時間が経過しているから、多分鮮度は落ちている。

 家計の無駄、食品ロスとか、私のうっかりで色んなことに反してしまったが、何より生産者さんに申し訳ない。

 過去にパウチのスイートコーンやツナを買い物かごに残したまま危うく帰ろうとしたことがあったが、大葉はどうも見落としがちだ。

 再び気を引き締めたい。


 一日を通して置いているものは同じでも、時間帯によってスーパーの雰囲気って違うものだなと近頃気が付いた。

 私は午前中のスーパーマーケットの空気感が大好きだ。

 客層は、私のような(おそらく)専業主婦やご老人。入り口や通路など狭い場所では、お互い譲り合うよう遠慮がちにすれ違う。
 ぽんぽんとかごに商品を入れている訳ではなく、皆予算と価格と品質を一つ一つ吟味しながら、慎重に買い物を続けている、ように見える。

 家計と家人の健康を守るため、主婦(とも限らないんだろうが)はスーパーで頭脳を働かせながら地味な努力を重ねているのだ。買い物中は、お互いお疲れ様です、と私は主婦らしき女性に脳内から声をかけている。

 ご老人夫婦もよく見かける。ゆっくり動けるこの時間帯ならでは、だ。
 二人でカートを押しながら、仲良く品物を選んでいるのを見かけたら、もう最高。段ボールをひょいと持って、おばあさんを誘導宜しく出口へすたすた歩いていくおじいさんなんて、痺れる。
 老後は、我が家もあんな夫婦になれたらな、と幸せな気持ちを貰える。

 世の中全体がこんなゆったりした雰囲気になれば、と願うが、リアルで語ってしまえばバッシングされがちな世知辛い世の中だ。なので決して口にしたことは無い。

 皆が金を稼ぐ仕事をすれば、そりゃ社会は潤う。

 だけど稼ぐ人を下支えする層がいる、ゆったり買い物が出来る人がいる。余力ある社会の部分があってこそ、豊かな証拠。そしてそこにもっと光があたってもいいのではないか。

 と、ここでこっそり言わせてください。

 それと、午前中はお惣菜が全種類揃っているところが素敵だ。その壮観な眺めと出来立ての香りを堪能できるのは、その時間帯ならでは。

 今は時間が出来たので、その時間を料理に回せて滅多に飼うことが無くなった。じっくり選べるような時間があるのに買う必要がそんなに無くなったのはなんだか皮肉なんだけど、やっぱりお惣菜って目にするだけでも元気になれるな。


 夫の一ヶ月の家飲み代は、6,000円。この金額に積算も根拠も特になし。
 それ以上買いたい場合は、夫の小遣いから。この1ヶ月の金額が多いのか少ないのか、ほぼ下戸な私にはよくわかっていないが、何となく決めたこの金額で長年落ち着いている。

 ポイントが倍増になる日曜日、ポイントカードを持たされた夫は、ファミリー層でごった返す夕方のスーパーに一人出かけた。

 バスケットいっぱいに今月のお酒(第一弾)を入れ、会計待ちのレジの長蛇の列に並ぶ。やっと彼の番が来て、レジのお姉さんはお酒のバーコードを次々通す。

 その最中、夫の前に会計が済んだおばあさんが
「あの、レジ袋1枚お願いします。」
と申し出た。

 混雑の空気に押されているのか「少々お待ちください。」と少し戸惑いながらも夫の会計を続ける店員さん。すると夫は、レジ袋購入カードを2枚店員さんに差し出し、店員さんもレジ袋2枚分のバーコードを通した後、会計済のバスケットの脇にかける。

 そして傍で待っていたおばあさんに「どうぞ」とひらり袋1枚を差し出す夫。

 まさかの展開に戸惑い固まってしまったおばあさん。そして発した言葉は
 「いえ、自分で買うので大丈夫です。」

 夫は見事に断られ、混雑していた店内も一瞬静まり帰ったそうだ。その光景目に浮かぶ。


 重量ある酒が入った白いビニール袋の中に、もう一枚ビニール袋を入れ戻ってきた夫。
 そして袋二枚という謎行動を解明するべくスーパーでの出来事を少しばつの悪そうに話す。これnoteのネタにならないかな、なんて言って最後はうまく話を締めくくった。

 いいじゃないか、そんな思いやりのすれ違いもある。

 昔から、私の夫は何の躊躇もなく、周りの目を気にすることなく親切にする人で、

 私は夫と結婚出来て、心から良かった、改めて思ってしまった。

 私はほぼ毎日同じスーパーに通っているのですが、そこではそれなりに、色々あるのです。