【今日コレ受けvol.066】見えない言葉の種を蒔く
朝7時に更新、24時間で消えてしまうショートエッセイ「CORECOLOR編集長 さとゆみの今日もコレカラ」。これを読んで、「朝ドラ受け」のようにそれぞれが自由に書くマガジン【今日コレ受け】に参加しています。
書くことで誰かを応援すること、できること。
それを最も意識するのは私の場合、電子書籍のブックライティングかもしれない。
電子書籍では、「たくさんの人に購入して読んでいただく」宿命がある商業出版と違い、プライベートな「自分史」や「自費出版」に近い形で本を出したいという著者が多くいらっしゃる。
「自分の人生をまとめておきたい」「お世話になった人に配りたい」「営業ツールにしたい」などなど、理由はさまざまだ。
その方々に代わって、書籍を書きあげるのがブックライターの仕事。
だからその方達が、「誰に」「何を」「どんな目的で」届けたいかを最初にしっかりとヒアリングしてから取材を進め、原稿を書き進める。
でも、第一稿をお見せすると、この「誰に」「何を」「どんな目的で」が最初と変わる方が結構おられる。
先日担当させていただいた著者の方も、最初は、「自分のビジネススキルやテクニックをまとめて、後輩や知人に配りたい」というお話だった。
だが第一稿をご提出すると、「どんくさく不器用な自分でも成功できる、という話を誰かに読んでもらい、勇気づけたい」とおっしゃった。そして赤字と共に、失敗や弱気になったとき、辛かった事件などのエピソードを、たくさんお話くださった。
それらを盛り込み、全体の方向性を調整し直してみると、ビジネススキルやテクニックだけの時よりも深みが生まれ、「その方らしい」原稿になった気がする。
おそらく御本人も、こんなふうに変えようなんて、第一稿を読むまで思ってもみなかったのではないか。文字になって読んではじめて、「自分はこうしたかったのだ」と気づいたのではないかと思う。
これまでは、長い取材と数万字という原稿を通じて、著者の方をより深く理解できることが、自分にとってのブックライティングの魅力だと思ってきた。でも改めて、その気づきを手伝えることが大きいのかもしれない、と。
それはきっと、ライターでなければできない仕事ではないだろうか。
昨年、『宇宙兄弟』の編集者 佐渡島庸平さんの編集講座を受けさせていただいたときに、「まだ言語化されていない、けれど確かにあるものに、言葉を付けられたら良い企画になる」というお話があった。
そして具体例として、手塚治虫さんが漫画のなかで、静かな空間に「シーン」という効果音をつけたエピソードを教えてくださった。
あれに似ている気がする。
まだ見えないけれど、御本人も気づいていないけれど。でも、たしかに著者のなかにある「こう書きたい」という想い、あるべき言葉、書籍の姿。
その気づきの種を蒔き、芽が出たら、修正という形で一緒に育てていけることは、とても光栄だ。
だから、赤字ウェルカム。方向転換ばっちこい。
言葉の種を蒔き続けたい。