そういうところ。
2020年3月以降、イベントの自粛要請などにより、様々なアーティストのライブが中止になった。そして、ライブに行かれなくなったリスナーへの救済措置のような形で、アーティストがライブ配信を始めた。
僕がチケットを取っていたライブも徐々に中止になり、残念な気持ちにはなっていたのでライブ配信を楽しませてもらってはいたが、「何か届けてくれ」とリスナー側から助けを求めてしまうのは、少し違うのではないかと思ってしまっていた。こういう時こそ、新しいものではなく、過去に出してきた作品に縋るべきだと思ったからだ。
なんとなくもやもやした気持ちのまま過ごしていた中、楽しみにしていたくるりのツアーも中止となった。しかし、そこで同時に届いたニュースには心が救われた。軽率(と言ったら語弊があるが)にライブ配信をするわけではなく、しっかり考えて(しかも早急に)出した答えが、未発表作品集『thaw』のリリースだった。
憶測ではあるが、音質や、演者と観客双方の感覚的には場つなぎ程度の対応となり、満足のいくものが届けられないと思ったからライブ配信には至らず、練りに練って出した答えが『thaw』だったのだと思う。
私も在宅勤務になったこともあり、疑心暗鬼だったストリーミングサービスにも登録したタイミングだったため、発売日から聴いている。好みは様々かも知れないが、くるりを聴き始めた時からシングルのB面が好きで、もちろん『僕の住んでいた街』(B面集、タイトルの字面だけで浸れる)も好きな私には、曇天の午後のような雰囲気のこのアルバムは至高だった。対応も含め、くるりのそういうところが好きなことを思い出せた気がする。そして、くるりのツドイも演奏をする素振りが一つもないのがとても好ましい。
さらにおかずの増えた、CDでの発売も待ち遠しい。『thaw』も含めた過去作を、何度もオートリバースで聴く日々は暫くは続きそうだが、本当の雪解けは事態が終息し、生音を聴いた時になるだろう。
詳細は『thaw』セルフライナーノーツにて
『くるりのこと』(くるり+宇野維正著)を読みながら時系列で聴くのもおすすめ。