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「他人の気持ちを理解すること」宮崎県立看護大学看護学部2014年

(1)問題


次の文章を読んで、問いに答えなさい。
 
①  私は中学・高校と女子だけのミッションスクールに通っていたので、毎朝、礼拝があり、週に一度は「聖書」という授業を受けていました、その「聖書」の授業を受け持つN先生が、朝の礼拝のお説教の時間にこんなことをおっしゃった。

②  「よく人は、『あなたの気持ちはよくわかる』と言いますが、他人の気持ちがそう簡単にわかるはずはない。だから人に対して、『わかる、わかる』と安易に言うものではありません。そして、『わかる、わかる」と言うような人のことを、たやすく信頼してはいけません」

③  そんな話を、普段、「あなたの隣人を愛せよ」とか「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出しなさい」とか、生徒に教えている敬虔なるクリスチャンであるN先生がなさったものだから、私はびっくりしてしまいました。

④  案外、N先生って、冷たい人なのかしら。思い煩っている人に向けて投げかける「あなたの気持、わかるわ」といった心優しい言葉を、疑えなんて。先生ご自身、何か他人を信じられなくなるような嫌なことでもあったのかしら。恋人にでも裏切られたのかしら。

⑤  N先生のお話を伺った直後は、あまり好意的に受け入れられなかった記憶があります。でも時間が経つにつれ、。その言葉がじわじわと心に響いてきたのです。

⑥  たしかに他人の気持ちを完全に理解することは不可能です。だって他人は本人ではないのだから。わかりたいと願う意識は必要かもしれないけれど、N先生がおっしゃるとおり、安易に「わかるわかる」と共感されたとき、言われた側は、はたして嬉しいでしようか。わかるわけがないと、反発したくならないでしようか。

⑦  「最近、腰が痛くてねえ」

⑧  「ああ、わかります、わかります。私も座骨神経痛に長年苦しんでいますから」

⑨  こういう「わかります」は、説得力がありますよね。自身の経験に裏付けされていますから。そしてさらに説得力を増したい場合は、
「もっとも私の経験した、腰痛とは種類が違うかもしれない。病院へ行って、ちゃんとレントゲンを撮ってもらったほうがいいですよ」そんなふうに言われた側は、痛みを分かち合う者同士として、そのアドバイスを素直にありがたく受け止めることでしょう。でもたとえば、「結婚して一年足らずで主人は戦地で亡くなりました。その訃報が届いた日のショックは、今、思い出しても胸がキリキリするほどです」

⑩  そう発言なさる未亡人に向かい、たとえば聞き手のアガワが、
「(ア)ああ、わかります、わかります。さぞお辛かったことでしょうねえ

⑪  なんて答えたら、未亡人はかすかに気持がしらけるかもしれません。なんでわかるのかしら。結婚もしていないうえに、戦争体験もないアガワに。
⑫  (イ)ここで大事なことは、相手の気持と同じになろうとしないことかもしれません。似通った自分の経験を探り出し、そのときの気持ちを重ねてみることは必要です。しかし、その経験とて、どれほど相手と似ているかは、誰にもわからないのです。「わかるわかる」は、そもそも親切心から発せられる言葉に違いありません。でも、言い方を少し間違えると、あるいは安易に使うと、ときに傲慢と受け止められる恐れがあります。

⑬  N先生がどんなお気持からそういう話を十代の我々生徒になさったのかわかりません(それこそわからない)けれど、今、インタビューの仕事をしていると、ときどきあのときの先生の言葉が蘇ってきます。だから私は、相手の話を聞きながら、「ああ、わかるわかる」と思うことは確かにありますが、その時間「 (ウ) 」と自分に問いかける作業も、同時にするよう心がけています。
(「聞く力」阿川佐和子文春新書)
 
問1 この文章で筆者が述べていることの主旨を、150字以内にまとめなさい。

問2 太字(ア)に代えて、あなたなら、どのような言葉をかけますか。その言葉を選んだ理由も付して、250字以内で述べなさい。

問3 太字(イ)と、筆者は述べています。このことについて、あなたはどう考えますか。400字以内で述べなさい。

問4 筆者は「 (ウ) 」で、何と自分に問いかけるのでしょうか。あなたの言葉で、15字以内で書きなさい。



 

(2)解答例


問1 
本人ではないので他人の気持ちを簡単に理解することは不可能である。言い方を間違え、安易に使うと傲慢と受け止められる。だから「わかる、わかる」と安易に言うものではない。相手の気持と同じになろうとせず、自分の似た経験を相手の気持ちに重ねてみることは必要であるが、その経験が相手と似ているかはわからない。(148字)

問2 
 大変なご苦労をされたのですね。ご主人は戦地でもずっと奥様のことを思われていたのではないかと感じます。私にもご主人のご冥福をお祈りさせてください。
 私ならそう言って、手を合わせて黙祷させていただきます。
 大切なことは、未亡人の考えを無理に理解しようとするのではなく、その気持ちにできるだけ寄り添い、共感したいという自分の思いを先方に伝えることと、亡くなられたご主人と未亡人に対する敬意を表するために、これを態度で示すことだと考えたので、このような言葉を選んだ。(249字)

問3 
 筆者の意見に反対である。筆者は「大事なことは、相手の気持と同じになろうとしないこと」とあるが、実際には相手の気持ちと同じになれるわけではないので、「大事なことは、相手の気持と同じになったつもりにならないこと」と言い換えればよい。「相手の気持ち」と同じになれなくても「相手の気持ち」に近づこうとする努力は必要である。しょせん相手は赤の他人なので、相手の気持ちはわからないから、わかる必要がないと、相手を突き放す態度こそ慎まなければならない。
 看護師に必要な資質は患者さんの気持ちに少しでも近づくことができる共感力である。これは先天的な能力ではなく、意識して相手の気持ちに向き合う意思と誠意に基づく。
 患者さんは自分の気持ちの完全な理解よりもむしろ、人として同じ目線に立って相手を思いやる看護師の誠意を敏感に感じ取る。ケアとは、このような誠意が伴って初めて成り立つものである。(388字)

問4 本当に相手の気持ちがわかるのか。(15字)


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