見出し画像

【この問題にはワナが仕掛けられている】「才能とは何か」日本医科大学医学部前期2019年2月8日実施

(1)問題

「才能がある」とか「才能がない」とかよく言われます。あなたにとって,才能とはなんですか。あなたの考えを600字以内で述べなさい。 

(2)考え方①「正しさ」は立場によって違う

小論文対策の参考書には、よく「こう書け」というノウハウが記載されている。

誤解を恐れずに言えば、それらはすべて間違いだ。

小論文の書き方は、大学・学部・学科によって異なる。

ちなみに「書き方」というのは、この場合、内容を指す。

原稿用紙の使い方や段落構成などといった形式面での書き方は各大学・学部・学科は共通なのは当然のことだ。

小論文は「正しい」考え方に基づいて結論を書く。

けれど、この「正しさ」は立場によって180度異なる。

たとえば、インターネット上の個人情報の扱いについて考えた場合、これを利用する企業側と、利用される消費者側では、利害関係が異なるために、考え方は180度とは言わないまでも、相違するのは当たり前だ。

企業側は倫理に反しない限り個人情報を販売促進やマーケティングのために最大限利用して利潤の拡大をめざすのが「正しい」。

一方、消費者側は自分の個人情報を勝手に使われるのは、迷惑であり、正直止めてほしいと思うのが最大公約数的な意見であろう。

これは医療の現場においても同様である。

医師と患者では厳密に考えると「正しさ」が微妙に異なったり、ずれたりする。

そこで、インフォームドコンセントによって、両者の摺り合わせを行うのだ。

(3)考え方②出題意図を考える

小論文は原則、自由に自分の意見を書けばいい。

参考文を踏まえて、設問の指示に従い、指定字数などの条件をクリアーして、日本語の文法に従い、語彙や漢字を正しく用いて、常識や倫理に反していなければ何を書いても自由だ。

しかし、生命を対象とする医歯薬看護系大学学部の小論文だけは別だ。

あくまでも医療従事者の立場で考えなければ合格点はもらえない。医療従事者の立場で考えるということは、医療倫理を厳格にして考え、書くということになる。

したがって、多くの入試問題は出題者の意図があらかじめ設定されていると考えたほうがよい。

今回の問題もそうだ。

「才能とは何か」という漠然としたテーマで、一見、何を書いても自由という気がしてくる。

それだけに難しい。

本来、小論文では、このような「〇〇について」「〇〇とは何か」というテーマ式の問題については、厳密に自分なりの定義をすることから始める。

今回の問題もその例に漏れない。だが、この問題には罠がある。

医学部以外では、学部に応じた「才能」や「適性」を書けばいい。

しかし、この日本医科大学の問題では、力点はそこにない。

出題者(採点者)の意図は、実はこの定義の厳密性に重点が置かれているのではないから注意したほうがいい。

この問題の出題意図は「才能」の定義とは別のところにある。

それは、「『才能がある』とか『才能がない』とかよく言われます。」という前段にヒントが隠されている。

大学入試の最難関と言われる医学部の試験に合格するような人は、もとより才能がないわけがない。

才能がない人間が医学部入試や医師国家試験を突破できるはずがない。

それなのに、なぜあえてこうした問題を出してくるのか。

この点を考えること。

そして、医学部の医学生の間によく聞かれる言葉を想像してみる。

この言葉に対して、医学部の教官はどんな思いを抱いているかを考えてみる。

ここまで思いを巡らせば、この問題は80%解けたことになる。

無料イラスト才能

(4)解答例

 大学入試の最難関と言われる医学部の試験に合格するような人は、もとより才能がないわけがない。そこで「医師に必要な才能」を「医師に求められる資質」と置き換えて考察を進めていきたい。

 医師の資質は4点ある。第一にしっかりとした倫理観。第二に健康な身体と精神を持ち、自己管理に努める能力。第三に豊富で専門分野の正確な知識や技術、観察力や注意力・分析力・判断力、持続力、行動力、忍耐力。これらの技能を磨く向上心。第四にコミュニケーション能力である。このなかでも患者の心身に直接働きかけ、ときには注射や手術などの医療的侵襲を加えるリスクを日常的に負い、患者の生命を預かる医師の職務の特性上、医療倫理はとりわけ重要な資質であると考える。

 医学部に入学後、厳しい試練が待ち受けている。ゆっくりとした睡眠や休息もとれないときもあるだろう。膨大な文献資料や実験が続きストレスが最大限に溜まり、投げ出したくなる心境になる学生もいなくはない。しかし、そんな苦難をまえにして「自分には才能がない」を言い訳にしてはいけない。自分を待っている患者さんが大勢いらっしゃる。そんな方々を前にしてこのような言葉は口が裂けても言ってはならない。医師に必要な才能は、どんなときでも弱音を吐かずに前向きに業務を遂行できるタフな心身にあると考える。こうした才能については、少なくとも私は他人に引けをとらないと自負している。(598字)

(5)解説

A教授:最近のうちの学生は二言めには「自分には才能がない」と泣き言を言う者が多くて困ってしまう。

B教授:それは私も感じている。とにかく言い訳が多い。難しい入試を突破してきたのに、お前に才能がないわけないだろうと諭すのだけれど、「才能がないから自分は医師に向いていない」とそんなことばかり言う。

A教授:本当に困ったものだ。面接試験のときにもう少しその辺を注意して聞いてみたほうがいいかもしれないな。

B教授:それでは、入試小論文でも「才能について」というテーマで今度出してみましょう。

こんな会話が交わされたことを想像している。

医学部教授

おそらく、上記の会話はどこの大学医学部でも教官の間で日常的に交わされていることは想像に難くない。

今回の問題は、結論で「どんなことがあっても、自分には才能がないを言い訳にしない」「才能がないと弱音を吐かない」という決意表明で締めくくることを期待して出されたものだ。

これは、志望理由書にも書いてもらいたい内容になる。

医師をひとり養成するのに、国や大学は莫大なコストをかけている。一人の医学生が途中で医学を投げ出して転部や退学をするということは、その分のコストを無駄にしていることになる。

また、その医学生よりも決意や覚悟がある受験生が、大学に入れないことを意味する。これは国や患者にとって大きな損失になる。

こうした背景を肝に銘じて、医学部入試に臨んでもらいたい。







いいなと思ったら応援しよう!