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2017年度上智大学推薦入学試験(公募制) 法学部 国際関係法学科「抑止戦略の限界」

(1)問題


【問題】以下は2016年 4月 20日『朝日新聞』夕刊3面に掲載された藤原帰一氏による「現代の国際関係 抑止戦略の限界に直面」という論説です。その課題文を読み、抑止戦略の有効性と限界について、現代世界に発生している(または発生した)具体的事例を挙げながら自分の考えを述べて下さい(800字、解答 用紙2枚以内)。


<課題文>

軍事力によって相手の行動を事前に抑えこむ。世界各国の多くが採用する軍事戦略である。だが、この抑止戦略が機能することの難しい状況が世界に広がっている。

*

まず基本を押さえておこう。国際関係において各国が軍事力によって達成を求める目標の第一が国家の防衛である。そして、その国家の防衛は、通常は抑止戦略によって実現することが期待されている。侵略された場合には大規模な反撃を加える準備を整え、さらに反撃する意思を相手に対して明確に示すことによって、相手による侵略を未然に防止するのである。

抑止戦略が武力の放棄を求める平和主義と異なることはいうまでもないだろう。抑止力が相手の行動を抑えるだけの実効性を持つためには、相手に対抗することが可能なほど大規模な兵力を持たなければなら ないからだ。 抑止は侵略によって領上の拡大を求めるような攻撃的政策ではないが、だからといって抑止によって紛争を避けることができるとも限らない。どの国も防衛お目的とし、侵略する意思は乏しいと考えられる場合においても、相手の軍事行動に備えるためには軍備の拡大が必要どなり、その結果として軍拡競争と、 それを原因とした国際的緊張が広がる可能性が高いからである。これが安全保障のジレンマと呼ばれる状況であり、冷戦のもとの米ソ関係お支配し続けることになった。


また、抑止に頼ることなく平和を支えることが可能であれば、そのほうが抑止に頼る平和よりも望ましいことは疑いない。イギリス、フランス、ドイツなど西欧主要国の間においては、すでに軍事的威嚇によって相手の行動を抑える必要はなくなった。国際関係の安定が十分に期待できるのなら、抑止ではなく、相互信頼に基づいて平和を実現することができるだろう。

このように抑止戦略にはさまざまな限界はあるが、それでも国際関係における各国の政策としていまなお支配的な役割を果たしていることは否定できない。諸外国を全面的に信頼することはできず、軍事力による攻撃が加えられる可能性が残る限り、抑止の必要性も残されるからである。憲法9条によって戦力を放棄したはずの日本が自衛隊を保持し、アメリカと同盟を結んできたのも、諸外国によって攻撃が加えられる懸念を取り除くことができないからであった。


さて、私の目的は、安保条約や新安保法制の擁護ではない。問題は、軍隊を持ち、同盟を結び、アメリカの核抑止力に頼ったところで、それだけでは打開することのできない状況が現代世界に発生していることである。 (中略) これまでは抑止戦略に対して平和主義の立場から道義的批判が加えられてきた。だが、いま問われているのは抑止の正当性ではなく、その限界である。抑止に頼っても紛争を解決できないとすれば、武力紛争の拡大を放置するか、あるいは大きな犠牲を顧みず軍事介入に訴えるほかはない。抑止戦略に頼っても軍事介入に頼っても平和と安定を期待することができない、そのような世界に私たちは生きている。

(以上)

(2)解答例



 抑止戦略の機能は、侵略された場合には大規模な反撃を加える準備を整え、反撃する意思を相手に対して明確に示すことによって、侵略を未然に防止して国家の防衛を期待する。 しかし、限界もある。第一に軍拡競争とこれを原因とした国際的緊張が広がる可能性が高いこと。第二に抑止に頼ることなく相互信頼に基づいて平和を実現する手段のほうが優ること。現に西欧主要国の間でこの方法が取られている。


 冷戦下における米ソの核開発競争による核戦争の脅威は、抑止戦略の限界を現わすものである。日本とアメリカの軍事同盟である日米安全保障条約も抑止戦力の下で結ばれたが、日本が紛争当事国にならず、また他国の侵略を受けなかったという歴史的事実は、抑止戦略が一定の機能を果たしたという役割がある。


 世界恐慌後の保護貿易的なブロック経済が第二世界次大戦の背景にあった。その反省から、第二次大戦後、各国が国際分業を進めて、貿易の面で互いに依存しあう関係を築くことにより戦争を回避する自由貿易の考え方が取られた。これにより国連はGATT・IMF体制を構築し、戦後の国際経済の枠組みができた。これは、相互信頼に基づいて平和を実現する方策のひとつと評価することができる。しかし、アメリカのトランプ大統領の出現により状況が変化した。自由貿易による国際競争で敗れたアメリカは一転して保護貿易に傾倒している。平和を指向する自由貿易体制が破綻して、現在は米中通商紛争へと推移している。この紛争はさらに軍事衝突へ発展する危険な芽をはらんでいる。


 現在の難しい国際関係を解決する糸口は、各国が国民国家の中に閉じこもるのではなく、国連などの国際機関を通した国際協調を見直すことが求められている。国連の機能を強化することで国際協力の仕組みを再構築し、相互依存の必要性を国民や政治家は再認識する必要に迫られている。(790字)


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