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【SNSの普及が子どもの教育環境に与える影響】教育学部小論文講座(第7回)

(1)はじめに

ツイッターやフェイスブックといったSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は瞬く間に普及して、私たちの日常生活に必要不可欠となり、社会や文化を大きく変えました。

この波は子どもたちも、もろに被り、ネット中毒、ゲーム中毒の子どもが増えて、これが学習状況に大きく影響をあたえるようになってきています。

古くは、いわゆる「PISAショック」※1と呼ばれる事象の背景には、こうしたネット環境の大きな変化を背景として指摘する声があります。

特に調査では、読解力の低下が深刻な課題として大きくクローズアップされ、SNSの悪影響との関連は無視できないものとなっています(下の「平均得点及び順位の推移」参照)。

※1「PISAショック」:2003(平成15)年・2006(平成18)年のPISA(国際学力調査)で日本の国際順位・平均点が大きく下がったこと。

PISAショックだ

出典:国立教育政策研究所

これを受けて2006(平成18)年には第一次安倍内閣が教育再生会議を設置し、翌年から全国学力・学習状況調査※2が開始されました。このような大きな流れは2020(令和2)年学習指導要領改訂と2021(令和3)年の大学入試センター試験廃止、実力テスト開始という抜本的な教育改革へとなだれ込むのです。

※2全国学力・学習状況調査:児童・生徒の学力や学習状況を全国的に把握・分析して教育施策の成果と課題を検証し、改善を図ることを目的とする。全国の小学6年生と中学3年生を対象に実施し、知識に関する問題と知識の活用に関する問題の2種類が出題された。

去年(2020年)ベストセラーとなった『スマホ脳』( アンデシュ・ハンセン/著 、久山葉子/訳. 1,078円(税込). 発売日: 2020、新潮新書)は、スマホが人間の精神活動や社会活動などに与える負の影響を詳細に論じた本で、教育関係者からも熱心に読まれて、スマホを攻撃する材料として使われています。

次章でその一部を引用させていただいています。

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来年の大学入試小論文はこの本を参考資料として出してくる大学が頻出することが予想されます。

特に教育学部の受験生には必読書と言っていいでしょう。

教育学部小論文講座(第6回)の今回は、「SNSの普及が子どもの教育環境に与える影響」というタイトルにしましたが、受験生は広く「情報化社会の課題」というテーマで、GAFA※3やネットや街頭カメラによる監視社会の問題、ネットの炎上や個人情報の侵害といった人権に関する課題など、さまざまな問題を調べ、自分の頭で考えておくようにしてください。

※3GAFA:米国の主要IT企業であるグーグル(Google)、アマゾン(Amazon)、フェイスブック(Facebook)、アップル(Apple)の4社の総称。GAFAらプラットフォーマーは、個人情報を収集し、ビッグデータを解析することによりサービスなどの向上に活かす一方で、情報漏えいやプライバシーの侵害などの問題を引き起こしている。


(2)スマホによるうつや不眠症

資料・『スマホ脳』( アンデシュ・ハンセン)P116P~118

過小評価されている睡眠

極端なスマホの使用が、ストレスと不安を引き起こす。だが、何よりも影響を受けるのが睡眠だ。ここ数年、精神科医として患者を診る中で気づいたのは、ょく眠れない人が増えていることだ。ほとんど全員が睡眠導入剤のことを尋ねる。最初のうちは、こんなに多くの患者が私のところに来たのは偶然だろうと考えていた。しかしそうではなかった。眠れなくて受診する人の数は爆発的に増え、スウェーデン人のほぼ3人に1人が睡眠に問題があると感じている。睡眠時間もますます短くなっていて、平均で7時間。ということは、2人に1人は、必要とされる7〜9時間よりも短い時間しか寝ていない。同じ傾向が多くの国で見られる。

 実際、平均睡眠時間はこの100年で1時間も減っている。さらに時間を遡ると、狩猟採集民だった祖先は、私たちより長く眠っていなかったにしても、よく眠れてはいたようだ。現在でもその頃のように暮らす部族を調査すると、睡眠障害に苦しむのはわずか1〜2%だからだ。一方、工業国では3割。つまり、現代人の睡眠は非常に質が悪い。

スマホでうつになる?

 本書冒頭で見たように、長期のストレスはうつになる危険性を高める。そして今読んだように、現代のデジタルライフとスマホはストレスを引き起こす。さらにもうひとつ、ここにはまるパズルのピースがある。100万人近く、9人に1人以上のスウエーデン人が抗うつ薬を服用していること、抗うつ薬の使用が過去10年で急激に増加したことだ。同じ時期に、ストレスを招くスマホが皆のポケットの中に登場している。

 スマホがこの増加を招いたのは想像に難くない。だが、スマホのせいでうつになる可能性はあるのだろうか。サウジアラビアの研究者が1000人以上を対象に行った調査では、スマホ依存とうつに「警戒すべきレベル」の強い相関性があると結論づけられた。中国でも、スマホをよく使う大学生は孤独で自信がなく、うつが多いことが確認された。オーストリアでは、うつを患う人はスマホを極端に多く使うケースが多いと判明している。

 地球上の他の国からも、同じような調査結果がいくつも挙がっているが、これ以上例を挙げる必要はないだろう。スマホがうつになる危険性を高めるのは明白だ。だが、スマホでうつになるというよりも、うつの人がスマホをよく使うということはないだろうか。スマホのせいでうつになるとは100%断定できない。

 私自身はこう考える。過剰なスマホの使用は、うつの危険因子のひとつだと。睡眠不足、座りっぱなしのライフスタイル、社会的な孤立、そしてアルコールや薬物の乱用も、やはりうつになる危険性を高める。スマホが及ぼす最大の影響はむしろ「時間を奪うこと」で、うつから身を守るための運動や人づき合い、睡眠を充分に取る時間がなくなることかもしれない。

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(3)問題・「インターネットの普及による人間の精神の希薄化」山梨大学教育人間科学学部後期2015年

(問)筆者の述べる「人間の精神の希薄化」について文章中に書かれている内容と,あなた自身の経験や知識を踏まえながら,あなたの考えを六〇〇字から八〇〇字の範囲で述べなさい。

①インターネットの普及により,ニュースや動画なども自宅のパソコンや携帯電話を用いて無料で見ることができるようになりました。そのため,多くの人が新聞の購読をやめています。また漫画を読む人は増えています。その一方で小説などの書籍を読む時間は減っています。一昔前は一般小説を簡素化したケータイ小説が流行していました。このケータイ小説の特徴として,一文一文が短く,改行が多い,会話が多く,情景描写や心理描写が少ないなどがあります。このような例を挙げればわかるように,私たちは次第に長文を読むことに多大な労力を要するようになったのです。

②さらに大きな変化があります。パソコンや携帯電話によるEメ‐ル,SNSなどが普及していき,これが長年の習慣である言葉による間接的なコミュニケーション手法,手紙を大きく変えてしまいました。手紙とEメールやSNSの一番の違いは何なのでしょうか? それは相手とのやり取りの回数の違いでもあります。EメールやSNSを用いれば、相手と一日のうちに何回も送信・受信のやり取りができます。そしてそれにより,ごくごく短文の意見を書き連ねる簡単なやり取りだけで、自分の意見を表出できるようになったのです。

③過去を振り返ってみましょう。かつて手紙を書くということは,私たちは大きな労力を強いられていました。まず,最初から手紙をスラスラと書ける人はあまりいないでしょうから,下書きをしなければいけません。手紙には書き方,つまりはルールがありました。前文の頭語,時候のあいさつから始まり,前付けで相手の安否や自分の近況報告などを考えます。そして主文,末文,後付けとつながっていくのです。そこでは自分の伝えたいことがきちんと的確に,そして簡潔に書かれているかを何度も確認していました。つまり何度も文章を推敲しなければいけませんでした。

④なぜそのような手順を踏んで手紙を書いていたかというと,手紙が頻繁に出せるものではなかったからです。少なくとも毎日,一日のうちに何通も出すものではありません。逆にそれだからこそ,私たちは自分の文章を確かめたり,「言葉」を確認したものでした。言うならば,時間をかけて「言葉を磨いて」いたのです。

⑤しかし,EメールやSNSの普及といったテクノロジーの進歩により,私たちは次第に「言葉」を磨かなくなっていったのです。

⑥このように,私たちは次第に「言葉」から遠ざかってしまいました。それゆえ,私たちを感動に導くような「美しい言葉」に出会う機会も減ってしまいました。「美しい言葉」は私たちの人生を変え,生き方をも変えていくものでもあります。残念ながら, 一日の多忙な雑務からか,その機会からも遠ざかっています。


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