【案外難しい】要約のコツ
(1)はじめに
大学入試小論文の問題では半数以上参考文がついています。
要約しなさい、という問題も多く出され、学校の国語の授業では要約をあまり習ったことがない受験生も多く、戸惑う人も多いのではないでしょうか。
参考文型小論文では要約力が問われます。
今回は要約の方法や注意点について話してみたいと思います。
(2)参考文をきちんと丁寧に読む
まず初めに当たり前のことですが、参考文をしっかりと読んでください。
参考文を最低2回は読みましょう。
一度目はアンダーラインや傍線などを引かずに、集中して最後まで読む。
全体の大きな流れや中心となる主題、結論=筆者のいちばん「言いたいこと」をつかむこと。
二度目は細かく、細部に至るまで神経を配りながら読む。
設問文に関係のある文にアンダーラインや傍線を引いたり、キーワードをマルで囲んだりして、強弱をつけながら読んでください。
(3)要約のポイント
それでは、要約するときには、ほかにどのような点に注意を払えばいいかを以下に解説します。
① 段落構成を意識しながら読んで要約する。
参考文を読むことは、小論文を書くことと表裏一体の関係にあります。
小論文では段落構成が最重要課題であるのと同じで、参考文を読んで要約するときも段落構成を意識してください。
「起承転結」の4段落構成について復習します。
第1段落(起):問題提起(テーマの提示)
第2段落(承):主題の展開;具体例を挙げながら、考察を行なう
第3段落(転):話題転換
第4段落(結):結論;必ず理由や根拠を添える
要約するとき、第1段落(起)の問題提起と第4段落(結)の結論は絶対に落とさないでください。理由や根拠も必ず添えること。
上の「起承転結」の段落構成は尾括型の文章をもとに解説しています。
頭括型(双括型)の場合には、第1段落で結論が書いてあることもあります。
【意味段落と形式段落】
上の解説で言う段落は、意味段落のことで、形式段落ではありません。
形式段落は1マス下げて始まる文章のまとまりで、ひと目で段落がわかります。
意味段落は内容でまとめた段落で、ふつうは1つの意味段落は複数の形式段落から構成されています。
大学入試小論文の答案は、ふつう意味段落と形式段落を一致させて書きます。
それでは、以下に参考文を要約する際のポイントについて、実例を挙げて解説してゆきます。
② 具体例は基本的にはカットする。
(4)問題
以下の文章を読んで、100字以内で要約しなさい。
相手理解は聞くことから 東山紘久(ひろひさ)
1⃣「沈黙は金、雄弁は銀」「言葉多きは計少なし」「一度語る前に二度聞け」など、しゃべる ことよりも、聞くことの大切さが世間一般では強調されています。仏像を見ると、耳が大きく国の小さい像が、圧倒的に多いのがわかります。つまり、神仏は我々の願いを聞いてくれる存在なのです。同じように多弁な聖者はあまりいません。聖者は、己を人にわからせる必要がないからです。カリスマ性はあるかもしれませんが、少なくとも私には、多弁な聖者は信じられません。
2⃣神仏や聖人でない我々でも、話すことより聞くことをよしとするのは同じです。その証拠に我々は「しゃべりすぎた」という反省はよくしますが、「聞きすぎた」反省はほとんどしません。どうして聞くほうが大切で、話すほうは二の次なのでしょう。
3⃣これは情報の発信者と受信者の行動を考えるとわかりやすいでしょう。情報の発信者は、 受信者の反応が返ってこないことには、相手が情報をどう思ったかわからないのです。受信者は、情報の受け取りも放棄も、自分の気持ち次第です。情報がいらなければ捨てることさえできるのです。いらないダイレクトメールのように。その意味で発信者が情報をコントロールしているように見えますが、実は本当にコントロールしているのは、受信者のほうだと言えるでしょう。
4⃣人間関係は相互理解から成り立っています。我々は相手のことが気にかかったり、相手とつきあう必要があったりするとき、まず相手を知りたいと思います。相手を知るために、 情報をいろいろ集め、最終的には直接会って話をすることが必要です。そうでないと、他から集めた外部情報には、それを発信した人のバイアス(歪曲)が入るからです。
5⃣例をあげましょう。①目が大きい、②知的である、③美形だ、というデータの女性を表現するのに、「目がパッ チリしていて、教養のある、かわいいお嬢さんです。」と言うのと、「ドングリ目玉で、頭でっかちな、美人だが、冷たい感じの人です。」と言うのとでは、全く印象が違うでしょう。もしあなたが彼女に関心があるのなら、直接会って確かめる必要があるので す。
6⃣でも、この二つの表現はどちらが正しいとも言えません。あなたが確かめたいことは、自分の判断がどちらに 当てはまるかだけです。あなたが彼女に好意を持てば前者の表現が正しいと思い、あなたが彼女を嫌悪すれば後者の表現が正しいと思うでしょう。もし、もっと彼女を知りたいと思うならば、彼女の話を聞く以外に手はありません。
7⃣彼女と会う機会を作ったとしましょう。さあ、これからが大切です。あなたが一方的に話してばか りだったら、彼女にはあなたのことがよくわかるでしょうが、あなたに彼女のことは何もわかりません。わかるのは、「彼女は人の話をよく聞いてくれる人だ 」ということくらいじゃないで しょうか。事実、彼女が人の話をよく聞く人ならば、あなたにとってこの 出会いは、まだ価値があったと言えましょう。しかし、彼女のほうは、あなたの思いと違って、「なんとよくしゃべる人なのか。 」とあきれていた、というのが真相だったら、あなたは彼女を誤解しただけだった、と言えるのではないでしょうか。それだと二人の間のコミュニケーションのずれは決定的なものとなってしまいます。
8⃣我々は、真実の人間関係、うそのない人間関係、信頼のできる人間関係を持ちたいと常々 思っています。そのためには、相手の話を聞くことが必要になります。「聞く」ということ は、ただ漠然と耳に入れることではありません。聞くことは理解することなのです。音や言葉を聞くことは簡単ですが、相手を理解することは難しいことです。また、しゃべることは、対人恐怖症でない限り、案外楽にできるのですが、聞くことは苦行になることさえあります。しかし、相手理解は聞くことからしか生まれないのです。
上の参考文は8つの形式段落から成り立っています。
段落の前に1⃣ 2⃣……の番号をつけてあります。
それでは、今度は参考文を意味段落に分けてみましょう。
段落1:1⃣2⃣段落
結論①;話すことよりも聞くことのほうが大切、問題提起;それはなぜなのか
第2段落(承):主題の展開 ; 3⃣ 4⃣段落
結論の理由①;情報をコントロールしているのは、受信者のほうだから
第3段落(転):話題転換; 5⃣ 6⃣ 7⃣ 段落
具体例;彼女の容姿と性格
第4段落(結):結論; 8⃣段落
結論②;相手理解は聞くことからしか生まれない
結論の理由②;真実の人間関係、うそのない人間関係、信頼のできる人間関係を築くためには、相手の話を聞くことが必要になるから
参考文「相手理解は聞くことから」は、従来の起承転結の4段落構成のパターン(第1段落:問題提起、第2段落:展開(具体例)、第3段落: 話題転換、第4段落:結論)からは少しはずれて変則型になっています。
また、結論を最初と最後に配置する双括型のスタイルです。
二回目に読むときに、問題提起、結論とその理由(根拠)にあたる部分にアンダーラインをつけます。
参考文中では太字で示してあります。
このアンダーラインの文章を切り張りして要約文に仕上げます。
<参考>上の文章を「序破急」の3段落構成とみることもできます。
第1段落(序):問題提起(主題の提示);問題提起と結論…… 1⃣ 2⃣ 3⃣ 4⃣段落
第2段落(破):展開; 具体例;彼女の容姿と性格…… 5⃣ 6⃣ 7⃣ 段落
第3段落(急):結論;相手理解は聞くことからしか生まれない…… 8⃣段落
(5)解答例
話すことよりも聞くことが大切である。理由として、情報の受信者はその取捨を選択できるので、発信者よりも情報をコントロールできるから。次に、相手を理解し信頼できる人間関係を築くために必要不可欠であるから。(100字)
<重要>
① 要約も指定字数の最低9割以上で書く(1文字でもオーバーしたら0点)。
② 要約は1段落で書く(段落を分けずに書く)。したがって最初の1マスをあけずに書く。
(6)今回のまとめ
① 参考文を最低2回は読む。
② 段落構成を意識しながら読む。
③ 要約では、問題提起と結論は絶対に落とさない。理由や根拠も必ず添える。
④ 具体例はカットする。
⑤ 指定字数の最低9割以上で書く。(1文字でもオーバーしたら0点)。
⑥ 最初の1マスをあけずに書く。
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