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「怪獣は今、社会にとって何を示すか」日本大学芸術学部映画専攻総合選抜2021年学校推薦(公募制)

(1)問題


次の文章を参考に「怪獣は今、社会にとって何を示しますか?」あなたの考えを示しなさい。
(100分・1,000字程度)
※池田漱子繍著一「アメリカ人の見たゴジラ、日本人の見たゴジラ」大阪大学出版会,2019年,8ページ)
 
映画の怪獣は視覚を楽しませる。セルロイドの怪獣は、実際のモノや自然に存在する生物に対応するわけではない(そして確かにわれわれはそのことに感謝すべきなのだが)。怪獣は目に見えるが実体のない、大きな影響を与えるものだが、空虚で、リアルであるが架空のものなのである。いやしくも存在していると言えるのは、視覚的表象という形においてのみであり、怪獣を心の中に呼び起こし、思いを巡らす人々の空想の中においてである。ある意味では、怪獣のイメージ分析は、怪獣が何であるか、また怪獣が何をするのかという心臓部を調べてみることである。英語のmonster(怪獣)という語は、ラテン語の monstrumという語に曲来し、また英語のmonstate(示す)といった話に関連するので、怪獣は、われわれに何かを「示す」という意味になる。日本語の「怪獣」という表現は、言語的なルーツは異なるけれども、視覚的なイメージを通して何か見えない大切なものを見させてくれるという点で共通するものがある。


(2)解答例


 2020年から世界で猛威を振るった新型コロナウイルスは、海外では多くの死者を出したが、日本では少ない犠牲者で済んだ。しかし、国民の多くはこの未知の病に対し、いたずらに恐怖し、まさに怪獣を見るような思いで震えおののいた。

 映画では、怪獣ゴジラが襲来したとき自衛隊が出動した。戦闘機は怪獣に対してミサイル攻撃を仕掛け、戦車は怪獣に砲弾を浴びせた。しかし、怪獣は倒れることなく、暴れ続けて首都東京を蹂躙した。人類は怪獣との戦いに敗れた。怪獣に擬された新型コロナウイルスとの戦いはどうだろうか。初めは治療法もなく、マスクに手洗いなど怪獣の侵入を防ぐための戦いを強いられた。その後、相次いで開発されたワクチンを2回、3回と打つ人が増え、一時は感染者数を減らすことに成功したかに見えた。しかし、ウイルスは変異株が出現し、感染力を強めてワクチンを無効にした。最近、再び新型コロナウイルスの感染者が増え始め、怪獣と戦って完全に封じ込めようという作戦は成功に陰りを見せている。

ところで、アニメ「アンパンマン」では、敵役としてバイキンマンが活躍する。アンパンマンは悪役のバイキンマンを攻撃して殺そうとしたり、抹殺しようとしたりはしない。バイキンマンがいくら悪さを働いても、倒すのではなく諭すだけだ。時にはアンパンマンはバイキンマンと協力して共通の困難に立ち向かうこともある。私たちは、新型コロナウイルスなどの感染症に対しては自衛隊が怪獣に対する態度ではなく、アンパンマンがバイキンマンに対する接し方で対処するほうが理に適っているのではないか。ウイルスを徹底的に封じ込めようとすると、ロックダウンのような方法を取らざるを得なくなる。たとえ感染者数を減らすことができても経済的な損失を受けて生活が困窮し、そのために健康を害して命を失う者も少なからず現れる。こうした事態を避けなければならない。経済を回しながら感染対策も両立させるには、ある程度の感染者が出ても、重症者や死者を増やさなければよいという戦略に切り替える必要がある。私たちの社会に求められるのは、撲滅ではなくウイルスとの共生・共存である。

 新型コロナウイルスのような新興感染症を怪獣とみなして過剰に恐れる態度は自粛警察を生み、患者や感染者に対する差別や偏見を生む。こうした態度は人権侵害にもつながるため、慎まなければならない。このように怪獣という「視覚的なイメージを通して何か見えない大切なものを見させてくれるという」筆者の主張はアフターコロナの現代において大変示唆に富むものである。(1073字)

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