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【言語とコミュニケーション】国際・外国語学部小論文の解法/第4回

(1)言葉とコミュニケーションについて考えよう

国際・外国語学部入試小論文では「言葉」や「言語」、「コミュニケーション論」に関する出題が多い傾向にあります。

日頃から言語論や言葉遣いについて考える習慣をつけてください。

志望理由書などにも、大学入学後に何を学びたいかという項目で、「コミュニケーションについて学びたい」と書く受験生をよく目にします。

これだけでは、不十分です。

コミュニケーションにもいろいろあります。

言語によるものと、非言語によるもの。

書き言葉と話し言葉。

家族や身内に対するものと対外的・社会的なもの。

このように分析的に考える習慣をつけることが必要です。

さらに、誰が誰に対するコミュニケーションであるのか。

政治家が国民に対するもの、企業が消費者に対するもの、行政が市民対するもの、科学者や医師などの専門家が市民に対するもの、新聞・テレビなどのメディアが読者や視聴者に対してのもの e.t.c.‥‥。

それぞれ場合分けすると、コミュニケーションのあり方や方法が異なります。

特に近年では、食の安全と安心にかかわる問題や、東日本大震災後の福島第一原発事故や新型コロナウイルス感染拡大などに伴う、リスクコミュニケーションのあり方が問われています。

「コミュニケーション論」はこのように多岐にわたり、それは単なる伝える技術にとどまらず、伝える側の責任や倫理などに関わってくる重要課題となります。

志望理由書では、上記に挙げた観点のうち、どのようなテーマをどのように学びたいのかを具体的に書くようにしてください。

(2)問題・「外来語受け入れの是非」高知大学人文社会科学学部国際社会前期2017年


次の文章を読み,あとの設問に答えなさい。

① 豊田有恒の小説『ビバ日本語!』(徳間書店,一九七七年)は,現在の日本語で外来語禁上令が発布されればどのような言語状況になるであろうかを描写したものだがその中に次のような対照的な表現が出てくる。

(a) それから台所に立って,洋餅を焼器に放りこみ, 襯(しん)衣(い)を身につけ襟締(えりじめ)を首に巻きつけ,いそいで袴(はかま)を引き上げた。
(b) みんなアット・ホームなアトモスフェアでやつてくれ。ここならどんなアイデアを喋ってもOKだぞ。さ。ブレイン・ストーミングをオープンするぞ。

② (a)ではパンやトースターなどの外来語がいかに日常語として浸透しているかがあらためて分かるし,(b)では,カタカナ語が多すぎて日本語が英語に乗っ取られたようだが,現在の日本語はこの一歩手前まで来ているともいえよう。

③ さて,外来語化に関してはこれまで賛否両論かまびすしい。端的にいえば,外来語は日本語を豊かにするばかりでなく,国際化時代を迎えてますます必要になるとする「受け入れ派」と,外来語は意思疎通の障害となるだけでなく,日本語の伝統を壊すものだと危機感を募らせている「拒否派」の論争である。このような意見の相違が出てくる要因として最も大きなものは,その個人が言語習得期にどのような言語環境,教育環境にいたかであると考えられる。

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④ 図は文化庁が平成十一年度に行った「国語に関する世論調査」(文化庁文化部国語課,2000年)の中の,外来語の知識と外来語に対する意識を問うた項目とを重ね合わせて,それを世代別に比較したものである。知識に関しては「エコロジーという外来語の意味が分かる」と答えた割合,意識に関しては「今以上外来語や外国語が増えてもよい」と答えた割合である。

⑤ 両者は非常に似たパターンをしており,外来語が「分かる」から受け入れへの抵抗感は少なく,「分からない」から抵抗感が強いということが分かる。ちなみに,別項目で質問された「日常の言語生活に外来語を交えることは好ましくない」と感じる理由の中で,「外来語や外国語が分かりにくいから」というのが,64.2%でトツプであった。

⑥ 一般に,人間は二十五歳くらいを過ぎると,新しいものを素直に受け入れることが困難になり,それまで受け入れていたものを規範とし,またそれに一番心地よさを感じる傾向がある。したがって,図に表れている外来語意識の世代差は,外来語が今のように増加するという状況が続く限り,常に存在することになる。つまり,現在は外来語受け入れ世代であっても,五十年も経てばその世代は外来語拒否派に回っているであろうと考えられるのである。
(出典:陣内正敬『外来語の社会言語学――日本語のグローカルな考え方――』世界思想社,2007年。ただし,出題にあたり,全体の趣旨を損なわない範囲で一部変更した。)

設問 太字の筆者の考えについて,あなたの考えとその理由を800字以内で述べなさい。

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(3)考え方

この問題を考える際の糸口はさまざまですが、今回では、そもそも外来語とは何かと考察することを出発点としてみたいと思います。

外来語には2種類あります。

①単なるものの名前であったり、日本語に置き換え可能な言葉。

 例:トースター、ピアノ、ドリンク、ステーション、ナースなど

②外国で起こってきた新しい思潮や運動、価値観や社会現象などを表す概念として導入されたもの。専門用語。

 例:エコロジー、フェミニズム、リサイクル、インフォームド・コンセントなど

このうち、重要なのは②になります。

これらの外来語を遣うということは、単なる日本語の名詞の置き換えに留まらず、従来日本にはなかった新しい価値観や思想とともに、こうした外来語が日本に入ってきたことを表します。

したがって、このような背景を学び、きちんと理解した上でなければ、こうした外来語を受け入れ、日常的に遣うことはできないことになります。

参考文で「五十年も経てばその世代は外来語拒否派に回っている」というのは、単に言葉の意味がわからいから遣わないというだけでなく、その根本となる新しい価値観や技術を理解できなかったり、受け入れることを拒むから「外来語否定派」になるということです。

新しい価値観を拒否する理由はさまざまでしょう。

たとえば、年を取って、既得権を持つようになると、これを否定され、奪われるように感じるから。

この例は、パワハラ(パワーハラスメント)という意味は知っているものの、これを認めたがらない上司や管理職などに該当しそうです。

「ザッピング」「ググる(グーグル検索)」「インストール」などのIT用語を現在の高齢者が遣わないのは、ネット環境になじみがないことが原因でしょう。

将来、さらにテクノロジーが進歩することによって、今はスマホやパソコンなどを自由に使いこなし、IT用語にも精通している若者が、50年後には、最新のテクノロジーに関する専門用語をまったく理解できず、遣わない。つまり拒否派に回っている可能性があります。

このように言葉(外来語)を考えるとき、新しい言葉(外来語)は単なる新造語=流行語(はやり言葉)という通念を越えて登場してくるものなのです。

つまり、言葉(外来語)というのは、新しい時代やこれを支える科学技術や哲学・思想という広い海の中から地殻変動によって隆起する島のような存在である。

こうした事実を忘れてはなりません。

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