【グローバル化と異文化理解】国際・外国語学部小論文の解法/第2回
(1)異文化理解のために必要な学び
国際・外国語系学部入試小論文の出題テーマでは、グローバル化はもはや定番中の定番です。
グローバル化(グローバリゼーション、グローバリズムともいう)は、本来、国際政治や国際経済に関する言葉ですが、国際・外国語系学部ではまずは異文化理解や多文化共生という文脈でこの問題を考えてみましょう。
異文化理解の問題では、第一に東洋と西洋(欧米)、日本文化と欧米文化の比較から入るのがオーソドックになります。
欧米の文化の基盤にはギリシャ哲学とキリスト教の伝統があります。
一方の日本などのアジアでは、仏教や儒教が色濃く反映されています。
高校の現代社会や倫理の教科書で、これらの哲学や宗教の特徴を押さえておくことは、小論文の教養を涵養する上での基本になります。
また、対比で言うと、キリスト教とイスラム教との比較も必要になります。
それから、日本文化を取り上げると、茶道や生け花、日本庭園、能や歌舞伎などの芸道や芸能についても現代社会や倫理の教科書で最低限の知識をマスターしてください。
最後に、東洋と西洋を比較するという二分法に潜む罠も考えておかなければなりません。
以下の記事を参考にして、この問題を自分なりに整理して意見をまとめておくように。
(2)問題・「グローバル化と異文化理解」高知大学人文社会科学学部国際社会前期2018年
次の文章を読み,あとの設問に答えなさい。
① 2000年7月の沖縄での先進国サミットは,この会議の史上初めて文化を議題に取り上げ,ますます画一化しようとする傾向に対して「文化の多様性」の擁護をアジェンタ中に含めました。ユネスコも同様の主張をしています。ここには人類の築いてきた文化の多様性の価値を認め,文化の「違い」がこの地球上での人間存在にとって深い意味を有することの認識がみられるとともに,深い「文化の危機感」が示されています。
② たしかに,この「ヒト・モノ・情報」が急速に移動し,大量消費され,飛び交う時代にあっては,民族や地域や社会や国に「固有」ととらえられている文化も大きく変容せざるをえない面があります。私自身がこのような「ヒト・モノ・情報」の「大移動の時代」と初めて指摘したのも,すでに十数年以上前のこととなりました。国境や地域を超えて存在する人々は多く「文化の固有性」を問うことの意味が薄くなり,むしろそうした問いそのものが「排他性」と「自文化中心性」を示すと批判されることもあるわけです。異文化を理解するといっても、何を自文化,何を異文化と認めるか,という疑問が出てくることもあるでしょう。また文化といっても,誰が何の文化について語り主張するのか,という疑問も出てくるでしょう。ある社会や国家の文化と一口にいっても,その文化のあり方には多様なものが存在します。
③ それに,現代生活においては,異文化は「外へ出て」経験されるだけではないのです。同じ日本人と思って声を掛けたら,まったく別の言葉とあいさつが返ってきたといった経験が東京の地下鉄でもごく普通にみられることとなりました。留学生の中に,たとえばヒンズー教の学生やイスラーム教の学生がいれば,学生どうしのパーテイでも,飲み食いする品目に,文化的にまず注意深く準備することが必要となります。またお互いに歓談の席で口にしてはならない話題にも注意しなければなりません。
④ グローバル化の今日,「異文化理解」は逆にこれまで以上に大きな意味をもつようになったと,私は強く感じています。文化的背景を異にする人々が出会い.結びつき,協同する社会がますます拡大し,人々が急激に国境や地域を超えて移動する現在,かつてなく人々は互いに深く理解し合わなくてはならなくなっています。同じ職場で大学で家庭で,異文化に接する生活が日常化しつつあります。いまや日本でもどのような地域であっても文化を異にする人たちがいないことはないような時代であり,社会となったともいえるでしょう。
(出典:青木保『異文化理解』岩波書店,_2001年。ただし出題にあたり,全体の趣旨を損なわない範囲で一部省略し,表記をあらためた。)
(注,「アジェンダ」とは,「行動計画」のことである(『広辞苑』第六版)。
設問 本文を踏まえた上で,「異文化を理解する」ということに対して,あなたはどう考えますか。あなたの考えを600字以内で述べなさい。
(3)用語解説
①グローバリゼーション(globalization)またはグローバル化,グローバリズム
地球規模で政治・経済・文化の一体化がすすむこと。背景として,情報化(インターネット網の広がり)や自由化などの交通・通信手段の発展が挙げられる。
これにより,YouTubeなどのように世界中の人々が対等な立場での協働を通じて,クリエイティブな活動を営むことができる(フラット化 by フリードマン)反面,伝統的な文化や共同体が破壊するデメリットも指摘されている。
インターネットで使用される言語の大部分は英語である。したがって、グローバリゼーションの進展によって、欧米の文化が世界を席巻(せっけん)し、文化の画一化の動きが強まり、地方文化(ローカル文化)が衰退する危険性もある。
(世界各国にマクドナルドなどのファストフード店が進出し、若者を中心に味覚破壊が進んでいる動きを思い起こしてください)
さらに、インターネットの普及はデジタルデバイドを加速するといった問題も指摘されている。
②ボーダレス化
国境を越えて,モノ・ヒト・カネ・情報が自由に移動すると。貿易の自由化や情報化が背景にある。
③エスノセントリズム(自民族優位主義)
自分の国の文化やものの考え方は優れていて,他の国は劣っていると考える見方や態度。エスノセントリズムは民族差別や偏見の原因となり、国際紛争の背景にもなる。
④文化相対主義
世界の国や民族の文化を比較して優劣をつけ,批判することはできないという考え方。
⑤ナショナリズム(民族主義)
国家や民族を重視し、その統一・独立・繁栄を目ざす思想や運動のこと。第一次世界大戦後のパリ講和会議でアメリカのウイルソン大統領が提唱した民族自決の原則に基づいて、ポーランドなどの国家が独立し、アジアでは五・四運動(中国)や三・一独立運動(朝鮮)が起こった。
現代では、グローバル化の進展により海外から大量の移民が国内に流入することで、排外的なナショナリズムが欧米で起こっている。アメリカのトランプ元大統領の主張や、フランスの極右政党「国民連合(RN)」党首のマリーヌ・ルペン、イギリスのブレグジット(EU離脱)は、こうしたナショナリズムを背景に国内を分断する動きが問題視されている。
(4)問題のヒント
参考文中の次の一節が手掛かりになります。
「留学生の中に,たとえばヒンズー教の学生やイスラーム教の学生がいれば,学生どうしのパーテイでも,飲み食いする品目に,文化的にまず注意深く準備することが必要となります。またお互いに歓談の席で口にしてはならない話題にも注意しなければなりません。」
ヒンズー教では牛は神の使いとして神格化し崇拝されているので、牛肉を食べることはタブーです。
次にイスラム教のハラルの問題を考えてみます。
ハラールの意味は2つあります。
1つはイスラム法で合法であること、そしてもう1つは健康的、清潔、安全であることです。
イスラム教では不浄なものを嫌う傾向にあります。
特に豚は不浄なものとされて、豚肉を食べることを禁止されています。
ムスリム(イスラム教徒)はハラールとして認定された食品しか口にすることは許されません。また飲酒も禁止されています。
日本ハラール協会のホームページを参照。
ふつう、文化を異にする外国人と親しくなるには、食卓を囲み同じものを食べることが近道になります。
しかし、このような食のタブーの問題を考えると、なかなか一筋縄ではいかないことがわかります。
(5)問題の考え方
参考文の最後の文章がこの問題を考える際の入口になります。
同じ職場で大学で家庭で,異文化に接する生活が日常化しつつあります。いまや日本でもどのような地域であっても文化を異にする人たちがいないことはないような時代であり,社会となったともいえるでしょう。
「同じ職場や大学で文化を異にする人とどのように関わり、つきあっていくか」というふうに問題を再設定して、身近なところから考えていくとよいでしょう。
あなたの学校の友人・知人や近所に外国人がいれば、その方たちとの関係や付き合いをもとに自分の経験を書いてゆく。
もしいなければ、あなたの住んでいる市町村のホームページをくぐって、多文化共生にかかわるところをよく読みこんでください。
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