【マル得情報入手法】小論文対策~慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部ほか
(1)知識で書くか経験で書くか
大学入試小論文の指導法で、2通りの方法を推す教師がいます。
【方法1】自分の経験で書きなさい。
【方法2】情報を集めて、知識で書きなさい。
このうちのどちらが正解か、という二者択一ではないかと思います。
どちらもアリかな、と考えています。
小論文の初心者と、倍率がシヴィアでなく、いわゆる難関大学以外は【方法1】でいいと思います。
情報を多く集めて、無理して難しい知識で書くと、理解が追い付かずに未消化で終わってしまいます。
それだったら、なまじっか中途半端な知識よりも自分の経験に裏打ちされている事実のほうが書きやすいし、ミスも少ない。
また、前提となる知識は予め参考文や図表で示されるので、こうした資料をその場で分析すればいい。
このような理由で【方法1】を推す教師が圧倒的に多い。
おそらく9割ぐらいはこの方法で書かせるかと思います。
慶應義塾大学でも経済学部はこのやり方で通用します。
基本的には、小論文最難関の慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部も資料をその場で分析する手法がある程度有効であることは間違いありません。
しかし、この2学部は資料の分量が膨大で、120分の試験時間があるとはいえ、資料を読んで分析するだけで、大半の時間をとられてしまい、小論文を書いても時間が足りないという事態に追い込まれる危険があります。
ですから、あらかじめ基本となる知識や情報を頭に入れておき、その文脈に沿って資料を見れば、スムーズに分析が進み、試験時間を効率的に使うことができます。
慶應義塾大学以外の大学でも、知識や情報はないよりも多少なりともあるほうが越したことはありません。
また、オリジナリティもしっかりとした社会に対する理解が前提となります。
人が考えない独自な意見を書くにせよ、現実離れした絵空事では、文学部以外では評価の対象にはなりません。
このような理由で、私は【方法2】を推奨します。
受験生の経験と言ってもたかだか十数年(例外もありますが)。
しかも、狭い学校や交友関係の知識は、たかがしれています。
帰国子女でもない限り、特異で特殊な経験をしたことがある人は少ないのではないかと思います。
たとえば、いじめられた経験がある、病気や事故で大変な思いをした、現在でも障害や病気と闘っている、このような経験があれば、入試小論文では武器となりますが、そうでない場合は、やはり新聞や書籍、学校の政治経済や現代社会、倫理、日本史・世界史など社会科の授業で得た知識をフルに活用したほうがいいでしょう。
(2)情報の入手法
こうした教科の知識に乏しい場合はいまから勉強してください。
とくに時事に関係する知識や情報を優先的に集めてください。
その際、新聞を読むのがもっとも有効な手段となります。
ヤフーニュースなどのネットニュースは記事のジャンルに偏りがありますので、できれば紙媒体の新聞を購読するか、新聞社のデジタル版に申し込むのがいいでしょう。
ちなみに私は朝日新聞デジタルを契約しています。
デジタル版は紙媒体と違ってかさばらず、検索で容易に必要な記事を遡ってよめるので、重宝します。
経済的な面で新聞購入やデジタル版の契約をためらう人には官公庁や付属機関のホームページが参考になります。
新型コロナウイルスの情報では、厚生労働省や国立感染症研究所(NIID)、病院などの医療機関のホームページが参考になります。
朝日新聞の固定記事(新型コロナウイルスQ&A)も役に立ちます。
また都道府県や市町村のホームページも有用です。
今回は特に慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部を志望する受験生にお勧めするページを紹介します。
(3)官公庁ホームページを参考にする場合の注意点
「都民ファーストでつくる『新しい東京』~2020年に向けた実行プラン」を紹介します。
この資料が優れているのは、入試小論文で出題される可能性の高い、あるいはかつて出題されたことのあるさまざまな資料(図表・グラフ)が豊富に使われている点です。
また、現在の東京の直面する課題や状況を手短に解説していて、政治経済の現状認識をする上で、使えるものとなっています。
さらに、最低限理解と暗記が必要な時事用語の解説までついている点がスグレモノです。
「都民ファーストでつくる『新しい東京』~2020年に向けた実行プラン」👇
ただし、問題点もいくつかあります。
このような資料を使う場合、いくつかの留意が必要です。
今回は、こうした注意点をいくつか書いていきます。
①キャッチコピーは小論文ではなるべく用いない。
「都民ファーストでつくる『新しい東京』~2020年に向けた実行プラン」でもキャッチコピーがたくさん使われています。
まず、タイトルにもある「都民ファースト」という言葉。
ちょっと見はわかりやすく、イメージが伝わりやすい言葉ですが、だからこそ落とし穴があります。
この言葉はイメージ先行で、その内実としては具体性に欠けるうらみがあります。
さらに、これは小池都知事が好んでよく使う用語であり、自分を売り出すための宣伝文句といってよく、政治色が強すぎる言葉になります。
小池知事に対して反感を抱く(少なくない)採点官に対して悪印象を与える危険があります。
大学入試小論文は表向き客観評価を謳っていますが、採点官も人間です。主観が入ることを排除できません。
私が採点官であったら、「都民ファースト」を結論に持ってくる答案には(文脈にもよりますが)マイナス点をつけるかもしれません。
自分の頭で考えた言葉、主張ではなく、都知事のポリシー(といってよいかどうかわかりませんが)に寄りかかっているという理由でのマイナス点です。
「都民ファーストでつくる『新しい東京』~2020年に向けた実行プラン」に掲載されている言葉としては、ほかに小池知事が「新しい東京」として目標に掲げる「誰もが安心して暮らし、希望と活力が持てる東京」「日本の成長エンジンとして世界ので輝く東京」などの言葉を自分の答案の結論部分で丸写しして使わないようにしましょう。
採点官はプロです。
これは東京都のプロパガンダ(宣伝戦)であることを見抜くのは容易です。
②事項羅列で結論を書かない
官僚の作文には「総花式(そうばなしき)」という特徴があります。総花式とは、重要点を絞るのではなく、課題をいくつも書き並べて、ほぼ同じ比重で事項羅列していく文章構成の方式です。
課題を漏らさず網羅している点では役に立ちますが、突っ込んだ具体的な分析に欠け、課題の因果関係や解決に向けた行程やプロセスが見えにくくなる欠点があります。
入試小論文でこのような総花式の答案が提出された場合には、視点が散漫としていて問題の焦点が見えにくく、広くは書かれているが、薄っぺらい内容のものとして、評価点は低く見積もられます。
(4)まとめ
以上、述べたように、今回紹介した資料「都民ファーストでつくる『新しい東京』~2020年に向けた実行プラン」は、繰り返しますが、現在の東京の直面する課題や状況がわかりやすく提示されているところにあります。
誤解を恐れずに言えば、現在の東京の直面する課題は、言い換えれば現在の日本が直面する課題と言ってよく、地方が直面する課題を逆説的に物語っています。
たとえば、地方の少子高齢化の進展に伴う人口減少と地方の消滅危機と東京の一極集中に示される問題がその典型です。
それでは、次回以降に「都民ファーストでつくる『新しい東京』~2020年に向けた実行プラン」の解説を少しずつしてゆきたいと思います。
本日はここまで。