【環境問題と農業】東京農業大学小論文の勉強法(第5回)
キーワード:有機農業、自然農法、有機肥料、化学肥料、農薬、無農薬、オーガニック、SDGs,持続可能(サステナビリティ),地産地消,フードマイレージ,食料廃棄
(1)はじめに
森林を破壊する焼き畑や、農薬による水質の悪化、遺伝子組み換え作物による生態系の破壊などの例から、農業は地球環境を悪化させる悪玉のように言う人がいます。
また、養豚などの畜産業では、悪臭などの公害問題が指摘されていることは周知の事実です。
こうした声を受けて、地球環境の持続可能を考慮した農業が模索されています。
もとより、アマゾンの先住民族が行う伝統的な焼き畑は森の再生を考えたエコロジーに基づくものです。最近では、農薬の使用量を抑えた農業が一般的になりました。また、遺伝子組み換え作物については、海外からの輸入品では多く見られ、その危険性や環境に与える影響が指摘される一方、その扱いについては国際的に議論されている最中です。
このような時代背景をもとに、農業従事者は、食の安全と安心を高めるために、これからさらに周囲の環境を意識した経営に配慮しなければなりません。
東京農業大学農学部2017年の推薦入試小論文でも、農業と環境保護をめぐる問題が出題されました。
今回は、農業とエコロジーについて真剣に考えてみましょう。
(2)問題
東京農業大学農学部農学科2017年推薦入試
「環境にやさしい」農業生産について、あなたの考えを述べなさい。
(3)考え方①「慣行農業」について
農薬や化学肥料を用いる一般的な農業を「慣行農業」という。
これに対して、農薬や化学肥料を使わない農業を「自然農法」と呼ぶことにする。
まず、「『環境にやさしい』農業生産について」というテーマから、ただちに「自然農法」について書きなさいと誤解して考えるのは、やや早計だ。
もちろん、農薬や化学肥料を使わないで、農作物の収量が増加し、高品質で安全・安心なものを簡単に作れるほうがいいに決まっている。
ところが、このような「自然農法」は多大な労力と時間、病虫害のリスクといった困難が伴い、高度な技術や長年の経験の蓄積が必要で、一朝一夕にはうまくゆかない。
「慣行農業」は、農作物を安定的に大量生産することを可能にし、農家の所得確保と生活の維持を図るために必要なものとして、農協(農業協同組合)が推奨している農法である。
こうした「慣行農業」を前提にしながら、「環境にやさしい」農業生産を志向するには、農薬や化学肥料を使いながらも、農薬漬け、肥料漬けという意味ではなく、法律で認められた農薬、肥料の使用基準を厳守することが現実的な選択となる。
そのうえで、できれば、低農薬で肥料も減らしてゆくことができれば、より安全・安心な作物となり、低コストの恩恵を預かることもできる。
今回の問題は字数制限がないようなので、書く順番としては、この話題から入る。
もし、字数制限があり、600字以内と少ない文字数の場合には、上記の考察は省略して、いきなり本題の「有機農業」や「自然農法」から書き始めること。
(4)考え方②農薬について
まず、農業ではなぜ農薬を使うのか、という解説からする。実際の入試小論文では、この話題は必要最小限にとどめることが望ましい。
農作物に農薬をまく主な理由は3つある。
①病気の予防・治療
②虫害の防止
③雑草の除去(除草剤)
以上は農林水産省のホームページから引用した。
しかし、化学物質である農薬は使いすぎると人間の体にも悪影響を及ぼす。
農薬の使用量を食品安全基準の範囲内で守っても、農薬を使用した農作物は過敏な体質の人に多かれ少なかれ、さまざまな影響をもたらす。
残留農薬はアレルギー反応や自閉症、じんましん等の化学物質過敏症を引き起こす原因 ともなる。
さらに、農薬が環境に与える影響も看過できない。
耕地で散布された農薬は害虫だけでなく、動植物や昆虫などの生物に被害をもたらし、周辺の生態系に影響を与える。
大半の農薬は河川を通して海に流れ込む。海では農薬・肥料などに含まれるチッ素やリンを好むプランクトンの異常発生をもたらし、赤潮となって漁業被害を与える。
一方、土壌の割れ目等を通 じて地下に浸透した農薬は地下水を汚染する。
(5)考え方③肥料について
次に肥料の役割と環境汚染の問題について解説する。
植物の成長にはチッ素・リン酸・カリウムなどの要素が必要であり、これを補うのが肥料の役割となる。
はじめは植物や家畜・人間の糞尿などの有機物が用いられていた。やがて化学肥料が開発されて、今では工場で大量生産された化学肥料を用いるようになった。
この肥料は植物の成長に恩恵を施す一方、環境汚染も引き起こす。
過剰な化学肥料の使用は連作障害※や、土壌や河川、海洋汚染や地下水の原因となる。
※連作障害:同じ科の作物を同じ場所で続けて植えることによって生じる生育障害。
そこで、このような環境問題に配慮した結果、近年では化学肥料ではなく、有機肥料を用いる農業が推奨されてきている。
無農薬と合わせて肥料も昔ながらの動植物由来の有機肥料に切り替える有機農業(または有機栽培、オーガニックともいう)がブームとなっている。
(6)有機農業とは
有機農業の定義については、「有機農業の推進に関する法律」によって以下のように定義されいる。
有機農業の位置づけについては、
生物の多様性、生物的循環及び土壌の生物活性等、農業生態系の健全性を促進し強化する全体的な生産管理システムであるとされ、国際的な委員会(コーデックス委員会が作成した「ガイドライン」に、その「生産の原則」が規定されている。
以上の解説は農林水産省のホームページ「【有機農業関連情報】トップ ~有機農業とは~」を参考にした。
(7)まとめ
「有機農業」は、化学的に合成された化学物質(化学肥料と農薬)を使わない農法で、無農薬・無肥料の「自然農法」とは区別される。
1935年に無農薬・無肥料で育てる「自然農法」の基本となる理論を構築した岡田茂吉氏(おかだ・もきち)と、不耕起・無農薬・無肥料・無除草というなるべく人の手を加えずに育てる「自然農法」を提唱した福岡正信氏(ふくおか・まさのぶ)の両氏を出発点とし、現代では、さまざまな「自然農法」が発案・実践されている。
高度経済成長の背景となった大量生産・大量消費の経済が、産業公害や食品公害といったさまざまなひずみをもたらした。特に肥料会社チッ素が起こした水俣病は、多くの被害者を生み、大きな社会問題となった。
また、近年では食品偽装やBSE問題を契機に食の安全・安心が国民の大きな関心を呼び、消費者は多少高価でも国産で安全と安心が担保された商品を選択する傾向が高まった。
これに呼応して生産者の側でも、低迷する農業にあって、付加価値の高い農作物を作ることで、収益の増加を目指す動きが強まっている。
21世紀、農業の再生を考えるときに、「有機農業」や「自然農法」は大きな手掛かりを与える。
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参考文献として以下の書籍の購読をお勧めします。
『わら一本の革命』(福岡正信、春秋社、2004年)
『マル農のひと』(金井真紀、左右社、2020年)
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