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開いた扉――「天使は奇跡を希う」003

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 放課後、ぼくは部室に向かっていた。

 一〇月に入ったというのに陽差しが暑い。やっぱり瀬戸内ということなのだろうか。

 校舎から延びる渡り通路を歩き、生徒会室の入った建物と食堂の間を抜けると、長屋のような部室棟がある。

 その奥から二番目が、新聞部だ。


 ガラスをはめたアルミの引き戸をがらりと開ける。ウナギの寝床とまではいわないけれど、長細い部屋。広さは四畳ないくらい。

 狭いスペースにオフィス用のスチール机とパイプ椅子が置かれていて、奥には物置と化した小さな木机と、鉄製のシューズボックスを積み上げた収納棚があった。

 中には発行した冊子のバックナンバーや、各時代の先輩たちが残していった食玩フィギュアなど――つまりガラクタが入っている。

 棚の上には交換したリング状の蛍光灯がそのまま放置されていた。

 ぼくは、新聞部に所属している。

 

 いろいろあって東京から今治に二度目の引っ越しをしたぼくは、この今治第一高校で入学式を迎えた。

 その日、式を終えて教室に戻ると、全員の机の上に冊子が置かれていた。

 わら半紙をホチキスで留めた冊子の表紙には『一高見聞録』と書かれていて、どうやら新聞部が新入生のために独自に作っている学校案内らしかった。

 中には、食堂のメニュー紹介や教師紹介、学校まわりの用語集といったものが在校生の視点でざっくばらんに書かれていて、それがとても面白かった。

 もともと読書好きで文章に興味があることもあって、ぼくはこの冊子とそれを書いている新聞部にものすごく惹かれて、次の日の放課後にこの部室を訪ねたのだった。

 そこで、同じ理由で来ていた成美と、五年ぶりの再会を果たしたりもした。

 ぼくは小学三年生から四年生までの二年間、ここ今治で暮らしていた。銀行員である父の転勤で、東京から愛媛に引っ越すことになったのだ。

 当時、今治タオルすら知らず、遠い土地で不安だったぼくを、小学校のクラスメイトたちはとても温かく迎えてくれて、中でも成美と健吾と仲良くなって、よく一緒に遊んでいたことを覚えている。


 ぼくがパイプ椅子に腰掛けスマホをいじっていたとき、がらりと戸が開く。

 成美が来たんだろう。そう思って顔を上げると――

「あれっ? 新海くん」

 そこにいたのは、

「星月さん……」

 白い翼を持つ、星月優花だった。


七月隆文・著/前康輔・写真 

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