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わたしたち、雫と聖司だねっ?――「天使は奇跡を希う」018

 道の雰囲気が変わってきて、いよいよ来島海峡が近づいてきたことがわかった。

 観光用に整備されたらしき自転車用のスロープを上っていく。

「大丈夫?」

 星月さんが聞いてくる。

 スロープはなだらかに設計されていたけど、二人乗りだときつい。

「……大丈、夫」

 返す声に力がこもるのを隠せなかった。すると彼女が、

「『耳をすませば』にこういうシーンあったね」

「ジブリアニメ、観てんのか?」

「それくらい観てるよ」

 天使も観てるのか。

「雫(しずく)が『あたしだって役に立ちたいんだから!』って言って後ろから押すんだよね」

「だな」

「あそこ好きなんだ」

「そうか」

「…………」

「やらないのかよ」

 ぼくのツッコミに、彼女があははと笑う。

「しょうがないなぁ。いっちょやりますか」

 後ろからふっと重さが消え、すぐに力がかかってきた。

「おー楽ちんだ」

 彼女の声を聞きながら、すかりすかりとペダルを回す。

「わたしたち、雫と聖司(せいじ)だねっ?」

「違うよ」

「バッサリだよ!」

 カーブひとつ曲がったところで、

「もういいよ、乗れよ」

「やさしいねぇ」

「そういうんじゃねえよ。乗れって」

「はいはーい」

 再び星月さんを乗せて、ぼくは立ち漕ぎでスロープを上りきった。

 かと思いきや、すぐにまた別のスロープにつながる。

 ――まだ上るのか。

 げんなりとして、脚が一気に重くなりかけたとき―――

 それが、見えた。


七月隆文・著/前康輔・写真 

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