「天使が天国から落ちてきたってアレだな! マンガだな!」――「天使は奇跡を希う」038
第3話 好きだからだ
1
ぼくたちは健吾の部屋にいた。
古い木の匂いのする八畳間に絨毯を敷いた部屋には、必要最小限の家具が飾り気なく置かれている。細い本棚には少ないマンガと、もっと少ない小説と、少年野球時代の写真と盾と、一瞬ハマったというプロペラ機のプラモが二機。ぼくにとっては、すっかり見慣れた風景だ。
「やー、マジほっとした」
健吾がベッドに寝転んでいる。自分の部屋の気楽さでごろごろしつつ、
「天使が天国から落ちてきたってアレだな! マンガだな!」
「声でけーよ」
ぼくは注意した。下におばさんもいるのだ。
「あとそれ、さっきも言った」
健吾が口許に手をやったあと、大きく朗らかにはにかむ。
存在が太陽だった。全体的に大きい感じがして、春の陽みたいに柔和だったり夏の陽みたいに熱くなったりしつつ、どこか抜けていたりもする。
「でもなんで俺たちにだけ見えるんだ?」
健吾の疑問は、ぼくたち全員の思いだった。
「星月さん思い当たること、ない?」
「それは……えーと……」
健吾の問いに、彼女はそわそわと悩み、
「ぎゃっふーう!」
ぼくの二の腕にパンチした。
「なんでだよ!」
ぼくのツッコミに笑いつつ、
「ユーカにもわからないよ」
とりあえず、そういうものと受け止めるしかないらしい。
七月隆文・著/前康輔・写真
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