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隣の星月さんを見る。ぼくをみつめていた。――『天使は奇跡を希う』023
「ちょっと! 何やってんの!」
唐突な声に振り向くと、わきに建てられた小屋から職員らしきおじさんが二人、あわてた顔で駆けてきていた。
そこまで必死にならなくていいじゃないかというくらい注意された。
小屋の手前のスペースまで連れて行かれ、
「なんでこんなことしたの」「車きたら危ないから」と二人がかりで責められる。
車通る気配ないじゃん、という気持ちが正直芽生えたけど、やりすごそうと黙っていた。
すると、職員が小屋から一枚の書類を持ってきた。
「ここに名前と住所書いて」
――マジか。
「何かお咎めがあるわけじゃないから」
じゃあなんで必要なんだ。
そこまで大げさにしなくていいんじゃないかという反発を覚えて、隣の星月さんを見る。
ぼくをみつめていた。
その表情は不安そうであり、同時にぼくがどうするのかを注意深く見守っているふうでもあった。
それでぼくは、頭が冷えた。
「……わかりました」
クリップボードを受け取り、書類に住所と名前を記入する。申し訳ないけど、多少の噓をついて。
「あの」
星月さんが職員に話しかける。
「こういうことした人、他にもいたりするんですか?」
すると二人の職員はともに苦笑いを浮かべて、言った。
「いないよ」
七月隆文・著/前康輔・写真