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「好きな子とかいるのか?」。とたん、健吾が箸を落とした。「マンガかよ」――『天使は奇跡を希う』030
「お前は、付き合ったりしないのか?」
ぼくは健吾に水を向けた。
イケメンで野球部レギュラーのこいつは、すごくモテる。ラブレターも日常的にもらっているし、ぼく自身、知らない女子から告白の手引きを頼まれたことがあった。
「あー……まあ」
軽く目が泳ぐ。
「なんだろうな……」
とたんに歯切れが悪い。
「お前、いくらでも選べるだろ。かわいい子もいっぱいいるじゃん」
「やあ、つっても、好きでもない子と付き合うのはな」
言いながら、スプーンから箸に持ち替えようとする。
「好きな子とかいるのか?」
とたん、健吾が箸を落とした。
「マンガかよ」
ぼくのツッコミと健吾の爆笑が重なった。
こいつの笑い声はよく通る。食堂中に響いているのがわかった。
「いやー青春! なんか青春っぽい話してるな俺たち!」
かんかんと声を渡らせながら、ふいに誰かをみつけた顔で手を挙げる。
「おー、成美!」
振り向くと、入口からこちらに来ようとしていたらしき成美がいた。
恥ずかしそうな表情を浮かべつつ、渋々と寄ってくる。
「その流れで声かけるのやめて……」
成美の抗議を健吾はさらりと受け流し、ぼくを指さす。
「もっとデートに連れてってやれって言っといたから」
「マジやめて」
ドスをきかせた成美に、健吾がおどけて肩をすくめる。
七月隆文・著/前康輔・写真