「でもお願い自体は素敵だと思うの。だからさ」。そう言って、人差し指と親指を半分の輪の形にしてワイヤーにくぐらせた。――『天使は奇跡を希う』027
「……どうだ? 帰れそうか」
「どうだろうねぇ」
言いながら、中央にある四角い台に跳び乗った。
そうして伸びをするように胸を反らし、瞳を閉じて。
バサッ……バサッ………
翼を気持ちよさそうにはためかせる。
ちょうど乗っている台が台座として、さながら天使を象(かたど)った石像に魂が吹き込まれた瞬間を目撃している感覚になった。
悔しいけど、そのくらい神秘的な姿だった。
「だめっぽいねえ」
いつもの表情で、からりと言う。
「そうか……」
ぼくはまあそんなもんか、というほどの落胆具合で応え、観光客の目線になってあたりを見る。
展望台は四角い石の床で、広さは六畳ぐらいだろうか。転落防止の仕切りとして、細いワイヤーが張ってある。
そのワイヤーに、何かがたくさんぶら下がっていた。
歩み寄って、たしかめる。
ぶら下がっているのは……小さな南京錠だった。
「おまじないらしいよ」
星月さんが横に来て言う。
「カップルがね、『いつまでも一緒にいられるように』っていう願(がん)をかけてやるんだって」
「鍵をかけるってことか? ロック的な」
「たぶん」
「怖いな」
「そういうこと言わない」
でもね、と彼女が続ける。
「今は禁止されてるんだって」
「たしかに、こういうのがジャラジャラ付けられてるのはなぁ」
「でもお願い自体は素敵だと思うの。だからさ」
言って、人差し指と親指を半分の輪の形にしてワイヤーにくぐらせた。
「新海(しんかい)くん、こうやってみて」
「……?」
七月隆文・著/前康輔・写真