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「いただきます!」向かいに座った健吾がぱしんと手を合わせ、白いうどんを勢いよくすすりはじめる。――『天使は奇跡を希う』029
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「おー、お待たせお待たせ」
健吾(けんご)が、トレイに特盛のきつねうどんと特盛カレーを載せてやってきた。
昼休み。食堂はいつものごとく賑わっている。
「いただきます!」
向かいに座った健吾がぱしんと手を合わせ、白いうどんを勢いよくすすりはじめる。
あれくらいの量ならぼくでもなんとかなるけど、こいつは二時限目の終わりに弁当をたいらげているはずで、部活前にもパンとかを食べるはずだ。いつもながら強豪野球部員の食欲はすさまじい。
健吾は幼なじみで、ぼくが一度目に今治に来た小学三年生のときからのつながりだ。
元々育ちの良さから朗らかで社交性の高かった健吾は、イケメンの野球部レギュラーに成長した。
ぼくたちはしばらく、空腹を満たすことに集中する。
健吾がカレーの山を消していく。ペースは早いのに食べ方が妙にきれいな印象だ。
そういうところも女子の好感度が高いと成美(なるみ)が言っていた気がする。
「ヨッシー」
健吾はぼくのことをそう呼ぶ。良史(よしふみ)だから、ヨッシー。
「交際、順調か?」
成美とのことだ。ぼくと健吾と成美。この三人が小学生からの仲だ。
「まあ」
「ちゃんとデートとかしてるか?」
「えーと、前の週末、フジグランに」
「昨日、一昨日は」
「ちょっと用事があって」
土曜は星月さんとミッションに行き、次の日は勉強したり趣味で始めたギターで潰れた。
「じゃあしょうがないけど………近場だけじゃなく、たまには松山とか連れてってやれよ?」
「お前、どこポジションだよ」
ぼくは苦笑でツッコむ。
「まあ、部室とか神社で話したりしてるからさ」
意外とそういうことで大丈夫なんだなと気づいてきた。
七月隆文・著/前康輔・写真