ニュートリノみたいだ――「天使は奇跡を希う」014
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天使はスマホとLINEのIDを持っていた。
『では《ミッション》を発表します』
中二病っぽいかぎ括弧を使って強調しているミッションというのが、
星月さんが天国に帰るための手段――の候補らしい。
そういうわけで、ぼくは土曜の朝から自転車で駅に向かっている。
郵便局の角を曲がり、公会堂の金のスクリューを過ぎてまっすぐ。
ほどなく駅のバス乗り場があり、その少し離れたところに星月さんは立っていた。
ぼくに気づき、ぱっと星のように笑う。
彼女の全身から透明な甘いものが放たれているようだ。
それはぼくの皮膚に届いて、すっと後ろまで浸透していく。
――ニュートリノみたいだ。
なんて、冷静なことを考えるふりで心をそらした。
ぼくは彼女の前で自転車を止めた。
「よう」
「よう」
わざとらしく真似てくる。羽がバサバサ動く。
「いい天気だね」
「そうだな」
「絶好のミッション日和だね」
「まあ、サイクリングには向いてるな」
「そう!」
ぴっと指さしてくる。
「しまなみ海道をサイクリングして、来島海峡(くるしまかいきょう)から
亀老山(きろうさん)展望台まで行くのが今日のミッションなのですだす!」
そうなのだった。
ですだすは、あえてスルーした。
「なんでそれが帰れる候補なんだ?」
「いい質問です」
探偵みたくうなずく。
「写真で見ると空に近い感じがしたから、帰れそうかなって」
てきとうきわまりなかった。
七月隆文・著/前康輔・写真