「ネットで調べたの」天使が言うとシュールだ。階段を踏む足音が、広いコンクリート壁にたーんたぁんと響く。――『天使は奇跡を希う』025
頂上は、そこそこ広い駐車場になっていた。
運転手さんに待ってもらい、ぼくたちは展望台へと向かう。
入口の階段わきに、小さな売店があった。
「伯方(はかた)の塩アイスだって」
実は隣の伯方島が産地だ。三〇〇円か。これ以上の出費は痛い。
「あれだろ、アイスに塩混ぜた感じだろ?」
「そういうこと言わない。半分ずつ分けようよ。そうすると、超いいよ?」
「何が」
すると、えー? それはぁー……とわざとらしく体をくねらせ、
「ユーカと間接キスできちゃうよ?」
「亀老って、ほんとに老いた亀ってことだったんだな」
「ほんとだ。亀の石像かわいい」
ぼくのスルーに、何事もなかったように乗ってきた。
木の階段を上っていく。
展望台へ続く道は、ウッドデッキ材と打ちっ放しのコンクリートを組み合わせた、やたらと現代的な空間だった。
「ここは、有名な建築家さんがデザインしたんだって」
「詳しいな」
「ネットで調べたの」
天使が言うとシュールだ。
七月隆文・著/前康輔・写真
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