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ぼくたちを、成美が無言で迎える。「違うぞ」ぼくは言った。――「天使は奇跡を希う」034

「ごめん、シャーペンの芯買っていい?」

「今?」

「忘れないうちに」

「あえて忘れて、その後(ご)思い出す努力をしようよ」

「なんの脳トレだよ」

「脳トレしようぜ?」

「なんでマッチョのポーズで言うんだよ」

 なんて話しながら、コンビニに入った。

 文房具エリアに向かう。狭い棚の間を、星月さんは器用に羽を折り畳んでついてきた。

「そういやさっき」

 ぼくは吊されている筆記具から芯を探しながら、話の隙間を埋める。

「そこのカーブで車とすれすれになってさ。やべっ、てなった」

 腕を摑まれた。

「えっ」

 思わず口に出して振り向くと――

「気をつけて」

 星月さんが、いつになく張り詰めた顔をしていた。

「車には気をつけて」

 見上げてくるまなざしが、腕を強く摑む指と同じ質感を帯びている。

 その急な変化は何かのネタ振りかとも思えたけど、彼女はただごまかすように微笑んで、腕を放す。

「気をつけなきゃ、ダメだよ」

 ぼくは戸惑いながら、ああ、と応えた。

 レジで会計を済ませ、テープを貼っただけのシャーペンの芯をポケットに突っ込む。

「じゃ行くか」

「うん」

 出口に向かう。――直後。

 外の駐輪スペースで自転車を駐めている、成美と目が合った。

 その目線がすでに、ぼくに事情を問うている。

 星月さんに振り向く。彼女はあらら、というぐらいの困り具合を浮かべていた。

 ぼくはかなり気まずい。

 なぜならLINEで「用事がある」とだけ告げて部活を休みにしたからだ。

 星月さんとのことを内緒にしたのは、それを話しだすとミッションのことも絡んでややこしくなるからで、他意はない。

「…………」

 コンビニから出てきたぼくたちを、成美が無言で迎える。



七月隆文・著/前康輔・写真 

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