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小説学校犬タロー物語⑧、タロ―学校犬となる、タロパパとの出会い

タロー学校犬となる
職員会終了後、国語科の松野先生と理科の杉本先生はタローに首輪をつけ、どこにつなぐかを相談したのです。

この頃、タローはいつもとおり、畑の中の作業小屋でぐっすり眠っていて危機が訪れていたことも、救われたことも、もちろん知りません。

社会科の大町先生も、この後まもなく、7年間、土日、長期休業の時も登校してタローの世話をすることなど、もちろん考えもしません。居酒屋でお銚子を一本,チビリチビリやりながら初夏の宵のひと時を楽しんでいたのは、まずは目出度いことでした。

松野先生と杉本先生は三つの案を検討していました。

①案 校長室、事務室、教務室のある管理棟近く。ここは外来のお客さんも通るので避ける。

②案 生徒昇降口前の広場。ここも人通りが多すぎるのでダメ。

③校地の一番奥の理科棟と社会科図書室棟との間の中庭。

この中庭は静かで生徒たちの憩いの場になっている。毎日、タローの世話をする杉本先生がいる理科職員室に近い。ここに決定ということになりました。

翌日、この池と藤棚のある中庭にタローは松野先生と杉本先生によってつながれたのです。

子犬の時、工場の番犬にされそうになって紐を噛み切って脱走したのですが、9歳になっていたこの時はおとなしく、されるがままにして逃げようとはしませんでした。

最初のころ、夕方、紐を外して散歩させてあげたのですが、1から2時間すると帰ってきて、つながれたのです。
古い教卓を利用して小屋を作ってもらいましたが、狭い囲まれた住処は気に入らず、いつも水飲み場の下をねぐらにしたのです。


タローがおとなしく紐でつながれた理由
工場の時とは違います。8年間も学校の居候犬として暮らしていましたし、生徒たちが休み時間にはタローのところに来て、遊んでくれます。タローの好物の食べ物も持ってきてくれます。

工場の飼い犬であった時は家出したのですが。今回は違います。女生徒たちとの結びつきは圧倒的に強くなっていたのです。    

さらには、犬の9歳ということは人間でいうと初老の男ということです。2年後にはフィラリアにかかっていることが判明したのですが、この時すでに罹病していたと思われるのです。

老年期に向かいつつあり、衰えを感じつつあったがゆえに、おとなしく学校犬になったのでしょう。

それに、放し飼いの犬に対する世間の目は次第に厳しくなりつつあったのです。花子は死亡の2年前から、近所の人達から苦情を受けて、つながれていたのです。タローも、もはや放し飼いが無理な時期に来ていたので

老年期に向いつつあるタローは自由気ままに生きる生き方を押し通すには無理がありました。職員会の議題になり学校犬になったのはちょうどよかったのです。

社会科の大町先生、タロパパ(タローのお父さん)になる
この時、タローが求めていた人間は次のような人物でした。

①タローの健康状態を見守って、少しでも異常があると動物病院に連れて行ってくれる人。

②土日、長期休業中も学校に出てきてくれる独身の教師。若い人は将来の人生計画もあり忙しいだろうから、庭いじりが好きな年配の独身者が望ましい。アパートで一人でくすぶっているより学校で過ごしたがっている独身者。

③一つの学校に赴任したら10年間は転任しないで面倒を見てくれる教師です。

タローにとっておあつらえ向きのこのような教師などいないと思うでしょう。ところがいたのです。タローが繋がれた所のすぐそばの社会科職員室にです。社会科教師の大町さんです。

③について(同一校に長期間勤務の教師): 大町さんの最初の赴任校に10年、二番目の赴任校には13年間、勤務していました。今の女子校に赴任して4年目です。後6年は残っています。

②について(休日にも登校したがる教師); 大町さんの前任校は山の分校でした。三食付きの宿坊旅館に下宿し、休みの日も分校に行き庭いじり、畑仕事をしていたのです。冬はスキー、春は山菜取り、夏は清流での釣り、秋はキノコ採りを楽しんでいるうちに、いつの間にか13年たってしまったというウッカリ者です。ふつうの教師なら若い時そして働き盛りの30代、40代の時に5-6年ごとに、いろいろな学校を経験し教員としてのキャリアを積むのですが、大町さんには全くその気がなかったのがタローには幸いでした。女子校に赴任して4年目、大町さんは休日にも登校し花壇作りをするということを始めつつあったのです。

①について(きめ細かく面倒見てくれる教師); 大町さんはある一つの事柄に取り組むまでは時間がかかりますが、いったん取り組み始めると徹底してやるという性格ですからこの点についても大丈夫です。

社会科の大町先生は社会科職員室と授業をする教室棟との間を一日に何回も往来します。そのたびに生徒たちがタローを取り囲んで遊んでいるのを目にしています。生徒たちに撫でられてタローは目を細め、目じりを下げて嬉しそうにしています。生徒たちも楽しそうです。

犬に全く無関心であった大町さんはタローと生徒たちの醸し出すなごやか雰囲気を見て、自身も楽しくなるのでした。

タローと大町さんの関係に決定的な変化が生じたのは夏休みのことです。    
大町さんは乱雑なアパートの部屋で一人で過ごすことを好みません。

夏休みに花壇つくりや教材研究のため毎日,登校していた大町さんがタローのとりこになるのは時間の問題だったのです。生徒がいなくて寂しそうにしているタローの世話をするようになったのです。タローは大町さんの姿を見つけると全身で喜びを表して駆け寄ってくるようになったのです。いつしか、大町先生は女生徒たちからタロパパと呼ばれるようになったのです。

大町先生は後に、同僚教師に次のように語っています。
「犬に全く興味がなかった私が、なぜか、いつの間にかタローの世話をするようになったのです。気が付いてみたら、いつの間にかタロパパと呼ばれるようになっていたのです。」
どうも、大町先生はタローが敷設したレールの上に、いつの間にか載せられ、気が付いてみたらタローの虜になったようです。
タローは、休日にも学校に出てきて自分の周りをウロチョロしている大町先生を見て、これは、ものになりそうだと思って接近したのでしょう。

約1万5千年前に犬の祖先が人間に近づき、人間を犬の友達にしたようにです。この時、人間の方から犬に近づいたのではなく、人間の食べ残した骨を手に入れようとして犬の祖先の方から人間に近づいたと思われます。
大町先生がタローの友達になろうとして近づいたのではなく、タローのほうが大町先生を友達にしようとした言えます。これは、タローのこれまでの生き方を見れば、十分、考えられます。

またもやタローは幸運に恵まれました。老年期にに入りつつある時期に安定した地位を手に入れたのです。幸運に恵まれたと言うよりも幸運を引き寄せ、それをしっかり掴む力をタローは持っていたと言った方がよいでしょう。












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