ご奉仕するアニメの話
『東京ミュウミュウ』をご存じだろうか。
私が幼いころに、まぁまぁの熱量でハマっていたアニメのひとつである。おもちゃも持っていたし、当時のOPとEDは歌詞は怪しいところもあるが未だに歌える。そんな思い出のアニメが令和になってリメイクされるということで、内心では「なんで今?」と思いながらも、好きだったものが話題になるのはちょっと嬉しい。そんなわけで、時間がある時にリメイク版東京ミュウミュウを流し見したりしている。あぁ、そうそう、こんな話だった。と思いながら見ているわけだ。
『東京ミュウミュウ』とは、レッド・データ・アニマルの遺伝子をなんやかんや利用して「ミュウミュウ」に変身して戦う女の子たちの物語だ。地球の動物たちを生物兵器「キメラアニマ」に変えようとしているエイリアンに対抗し、地球の未来を守ろうとしている。
主人公である桃宮いちごは、イリオモテヤマネコの遺伝子を利用しているミュウミュウである。そんな彼女の決め台詞は、
「地球の未来にご奉仕するにゃん」
どうなん?ご奉仕って。にゃんって。大丈夫そ?
他にも、ドキッとしちゃうような、狙いすぎなんじゃん?と思っちゃうような要素はいっぱいある。例えば、バイト先でありミュウミュウ達のアジトはカフェなのだが、メイド服を制服にしている。それをあんまり抵抗なく着ちゃうのもどうなん。あと、レッドデータアニマルズを初めとした地球の環境に関する問題、ケモ耳としっぽとか、謎の男性の半裸シーン、猫化して好きな子の家に行くとか、ブロマンスっぽい関係(白金さんと赤坂さん)、ロマンシスっぽい関係(ざくろとみんと)とか、なんやかんやいろいろな要素がモリモリなのだ。
そんな主人公の行動原理となっているのは、主人公が思いを寄せる「青山くん」。
青山くんは、後半で衝撃の事実が発覚するのだが、私は初めから、あんまり好きではなかった。いけ好かないやつだと思っていた。
まず、めっちゃモテているのだ、青山くんは。その割に、初期の青山くんからは自分の意志というのが感じられない(ように見えた)。自分がモテていることに対して何を感じているのかよくわからない。地球環境守りたいマンかと思いきや、そっちに振り切っているわけでもない。あと、キメラアニマと闘いに行く主人公に放置プレイされても、なんやかんや待ってたり、心配してくれたり。お前は女を選べるくらいモテてる立場なのに、主人公にいいようにされて、それでいいんか?!お前の意志はないんか?!怒りの感情を失ったんか?!という気持ちがぬぐえず、いまいち信用できなかったのだ。まぁ、ある意味、この直感は当たっていたのだけども。
大人になった私が、改めて青山くんを見て、思うこと。この人も、普通にヤバい人だった。
2度目の放置プレイを喰らった青山くんは、主人公に対して初めて声を荒らげる。ここはむしろ良い。主人公を心配している、人間らしい青山くんを初めて見ることができた。問題のシーンはこの後だ。
主人公がチョーカーをなくしているのに気づいた青山くんは、「桃宮さん、チョーカーは?」と聞く。主人公が「無くしちゃったみたい。」と答えると、ポケットから鈴のついたリボン(猫用)を取り出す。
そして、主人公の首に鈴がついたリボンを結びながら、こういうのだ。
「いちごには鈴付けとかなきゃ。」
「もう二度と、勝手に居なくならないように。」
「約束。いちごはぼくの猫なんだから。」
いや、何のプレイを見せられとんねん!
普通にやばいやつやんけ!!
夕日をバックにしたらなんでも青春っぽくなるわけちゃうねんぞ!!!
やりきった顔すんなて!!!
というわけで、青山くんについていろいろ言ったけど、今振り返ってみると、当時の私は、本当の青山くんを見逃していただけなんだと思う。青山くんの性格が控えめというわけでもないんだけど、他のキャラが濃すぎて、相対的に青山くんが自己主張の少ないキャラであるかのように見えてしまっていただけだったのだ。今思えば、一見ふつうの人っぽく見える人に垣間見えるヤバさ。ごちそうじゃん。
主人公の相手の青山くんにあまり響いていなかった私が当時好きだったキャラ(恋愛的な意味で)は、キッシュと白金さん。
白金さんは、いちご達をミュウミュウとして戦わせている元凶とも言える人で、いわゆる司令官的な人だ。まぁ、ちょっと強引なところはあるけど、常識の範囲内の人だ(東京ミュウミュウ世界比)。というか、他のキャラに比べたら主人公との絡むシーンが少ないので、印象が薄いだけかもしれない。ミュウミュウ達がピンチに陥っている時に大人である自分達は実際の戦闘に出れず何もできない歯痒さを噛み締めるシーンなんかは、大人になった今、グッとくる。あと単純に見た目が好みです。
問題がキッシュ。キッシュは初めから出てくる敵キャラである。エイリアンである。
主人公いちごちゃんに、初対面でキスをかましてくる。んでもって、
「とりあえず、ごちそうさま。」
「そんなに良かった?ぼくのキス。」
「せっかく可愛いおもちゃを見つけたと思ったのに。」
などと言い放つ。その後も主人公に執着し、主人公に対し「ぼくのいちご」「いちごはぼくのおもちゃ」などの審議が必要な発言を繰り返すのである。
まぁ、ね?敵キャラだし、アニメの世界だしね?そういうキャラがいるのもいいとは思うのさ。
そう。
やばいのはキッシュではなくてね?
何がやばいって、
声を大にして
「このキャラが(恋愛的な意味で)好き!」
って言ってた私、ヤバない?
リメイクを見直してもなお、そのヤバさを痛感する。というか、大人になって、以前よりもこの世界を俯瞰的にみられるようになった分、そのヤバさが余計に身に染みる。あんな男を恋愛的な意味で大好きな女のヤバさ。ヤバすぎる。
おもちゃ扱いされたかったのかとか、独占されたかったのかとかいうと、間違っているわけではないが、完全にそうとも言えない。そういう、キッシュの発言の内容そのもの、というよりは、好意をストレートに伝えている姿に惹かれていたのだと思う。主人公に対するキッシュの言動は、好意と言うには、歪んでるし、行き過ぎてるのだけど。
今でも、私は、好意をストレートに伝えてくれる相手に弱い。というか、好意の返報性が他人に比べて作用しすぎる節がある。
でも、今は、社会の一部として生きようとしているので、周囲の目などを気にして適切な方法で思いを伝えていただきたいという部分もある。タイミングが謎だったり、ほかの人に迷惑をかけていたり、そんな感じだと嬉しくても引いてしまう。
だから、あまり社会性という観点が発達していなかった幼い頃の私は、彼に満足できたけれども、社会性という観点が育った大人の私は、彼のヤバさに気づくことができたわけだ。
リメイク版東京ミュウミュウを見た時、そんなことを考えた。他にも、「“ご奉仕”って言葉、グッとくるんよな〜。」とか「チョーカーとか首輪、結構好きだな。」とか、そういう何気ない好きがいっぱい出てきて。
「私の性癖って、東京ミュウミュウによって形作られたのかも!」と思ったのだが、逆かもしれない。性癖があったから東京ミュウミュウが刺さった。もはや今となっては検証しようもないが。どっちなんでしょうね?
まぁ、結局、物心ついた時には、すでにちょろい女だったということ。現場からは以上です。