おじさんのケーキ屋さん
「おじさんのケーキ屋さん」と呼んでいる店がある。
その名の通り、おじさんがやっているケーキ屋さんだからだ。
ここでいう「おじさん」とは、「親戚のおじさん」「叔父・伯父」とかそういうことではなく、「よその年配の男性を親しんでいう語。」の意味だ。
じゃあ年配の男性がやっているケーキ屋さんなのかというと、微妙なところだ。男性は男性なのだが、年配と言っていいのか、判断に迷うところである。
話が長くなってしまったが、「おじさんのケーキ屋さん」と呼ぶようになった経緯はこうである。
新聞記事で、それなりに近所にケーキ屋さんがあることを知った。なかなかおしゃれそうで気になったので、早速お店のインスタアカウントを見てみた。
かわいくて、おしゃれな写真が並んでいる。ケーキのデザインはもちろん、お店の内装もかわいい。何より、写真の撮り方もオシャレに工夫されている。
お店の名前やケーキの名前も、フランス語か何かの言語を元に名付けられていて、こだわりを感じられる。
「へ〜、この辺にこういうセンスのお店があったんだ。行きたいな。」
そう思いながら、1番気になったケーキの写真をタップし、投稿を見てみる。
「えっ。」
文章が、絶妙に、おじさんなのである。
おじさん構文ともまた違うのだが、なんというか、絶妙に、おじさんなのである。
これがX(旧Twitter)のアカウントとかで、文章をメインで見ていたらそんなに気にならなかったかもしれない。
でも、ここはInstagram。おしゃれがおしゃれで殴り合い、センスがセンスで殺し合う場所。
そんな場所でも対等に渡り合えるセンスのあるおしゃれ写真を見てしまったため、そこに付随している文章のおじさん感に違和感を感じざるを得なかった。
行ってみる気満々だったのだが、ちょっと、決心が揺らいでしまったのだ。
家族にこの店を見つけた話をした。
店名がフランス語か何かから名付けられていることもあり、あまり聞き馴染みのないおしゃれなカタカナの羅列を覚えることができず、実際にInstagramのアカウントを示しながら話した。
私と同様に、家族の誰も店名を覚えることができず、しかし、インスタの文章の「なぜか説明しづらいけれどなんとなく感じるおじさん感」は無事に共有され、家族の中で「おじさんのケーキ屋さん」という呼称が定着してしまった。
私は何度か「おじさんのケーキ屋さん」に足を運び、無事におじさんからケーキや焼き菓子を購入した。おしゃれな店内、オリジナリティのある商品に満足している。実際のおじさんは、普通におじさんだけど、インスタの文章ほどのおじさん感はない。インスタの文章を知らなければ、おじさんではなく「店員さん」とか「店長さん」とか呼んでいたと思う。
そして、本日、ついに母親を「おじさんのケーキ屋さん」へ連れて行った。
母親も、「おじさんのケーキ屋さん」を気に入り、場所を覚え、1人でも来ることを心に決めていたほどである。
これからも私たちはこのケーキ屋さんのことを「おじさんのケーキ屋さん」と呼び続けるだろう。
しかし、決して、マイナスな気持ちがこもっているわけではないということをはっきりと述べておきたい。
以上、
「(お店やケーキのセンスはいいんだけどインスタの文章だけは)おじさんのケーキ屋さん」
のお話でした。
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