喫茶店❄︎私の思い出の記録❄︎
以前、思い出のお好み焼き屋さんについて書いた。
誰かにわざわざ話す機会はないけど、自分の中で大きな思い出として残っていることを書き残してみたいと思ったからだ。
そういう記憶がまだまだたくさんある。
だから、今回も書こうと思う。
書くに当たって、前回もちょっと不便だったのがお店の名前を出さずに書くことだ。
別に出してもいいのだけど、こうやって書き続けることによって、もしかしたらいつの日か住んでいる場所や年齢なんかが特定されてしまうと嫌だなという気持ちがある。
それで具体的な店名は出さずに書こうとしたのだが、ちょっと不便だったりもする。
というわけで、仮名を使うことにした。
今回書くのは、お気に入りの喫茶店。ここもまた今はもう閉店してしまった。
喫茶店の名前は、とある果物の名前がついている。ここでは『レモン』と呼ぶ。もちろん、仮名である。
喫茶店『レモン』は、赤煉瓦の建物で、雑誌や漫画がいっぱい置いてあって、そんな古き良き喫茶店。結構店内は広い。
背が高くて、ハキハキしていて、薄茶色のロングヘアをポニーテールにしたママさんが接客をしていた。おそらく旦那さんがキッチンの仕事をしていた。
自宅から通っていた幼稚園までの間にあるので、幼稚園の頃はもちろん、私が小学校低学年のころは、幼稚園に妹を迎えに行った母親とその喫茶店で待ち合わせをしたりもした。
よくそこで宿題をしていた。今思えば、私たちが利用するのは大体、大人にしては早めの夜ご飯の時間だったので、そんなに店内は混み合っていないから許されていたのかもしれない。
好きなものを注文して、宿題を取り出して頑張る。宿題がない時や終わった後は漫画を読める。お料理を運んできたママさんは、宿題をしている私を見ると褒めてくれた。読んでいる漫画とかも覚えててくれて、「続き入ってるよー。」なんて教えてくれたりもした。
好きだったメニューとかはあんまり覚えていない。だけど、ケチャップ味の太めの麺と大きめの具のパスタが鉄板に載っていて卵が周りで焼かれているアレを「イタスパ」ということを知ったのは、この『レモン』が初めてだったと思う。「鉄板」の「板」なのか、「イタリアン」の「イタ」なのかどっちなんだろう。どっちもかな。「ナポリタン」ともいうこともあるし、「イタリアン」ということもあるよね。奥が深い。と思ったのを覚えている。
ケチャップ味も卵料理も好きな妹は大体これを食べていた。当時の私は好きでも嫌いでもなかったと思うが、大人になってからの方が何だか無性に食べたくなってくる日があったりする。そんな懐かしい味の料理だと思う。
『レモン』は、各テーブルにシュガーポットが置いてあった。この砂糖が好きだった。角砂糖でもグラニュー糖でもなく、コーヒーシュガーが透明なガラスのシュガーポットに入れて置いてあった。コーヒーシュガーだから当たり前なのだが、私たち子どもが買い物するようなお店で売っているのを見たことがなく、特別な感じがして好きだった。氷砂糖のような、砂糖というよりは飴に近い感じや砕かれた形がキラキラしている感じも気に入っていた。大変お行儀が悪いけど、広げた紙ナプキンにそっと包んで持ち帰って、帰り道でちょっとずつ食べたりしていた。
こんな風に、『レモン』の思い出の中には、
あんまり美味しかったものの記憶がない。どれも普通に美味しくて、取り立ててこれが良かったというものがないんだろうと思う。それだけ、安心感のある、街の、みんなの喫茶店という感じの存在と言えるのかもしれない。
母親は「『レモン』に行くと良いことがある気がする」と言っていた。具体的に何かあったかと言われると思い出せないけれど、「確かにそうかもな。」と思った記憶がある。あと、立て続けに嫌なことが起きた時に「そういえば最近『レモン』に行っていないな。」と思ったこともある。別にこのお店やママさん自体からは何も宗教やなんかの匂いを感じさせられたことはなかったけど、私たちの中では、いわゆるパワースポットみたいになっていた。
だから、『レモン』が閉店することになった時、これからは悪いことが起きたらどこに行けばいいんだろうと、妙なことを心配してしまった。
そんな心配をよそに、普通に日常は続いた。たまにスーパーで『レモン』のママさんと会うこともあって、お店はもうないけど、お互い元気そうだからなんだか安心したりして。
今でも、入った喫茶店でコーヒーシュガーが置いてあるのを見ると、『レモン』を思い出す。無性に「イタスパ」が食べたいと思う日もある。漫画雑誌のあの紙の匂いとコーヒーの匂いが混ざった空間が恋しいと思う。